※この作品はオリジナル設定を含んでいます

 

 

 

「あの月並みかもしれないけど…」
「え?」
「俺と…結婚してくれ!」
「!!」
「ダメ…かなぁ?」
「プッ!!」
「わ、笑うなよ!!こっちは真面目なんだぞ!!」
「ふふふ…ごめん。」
「…ったく………で、どう?」
「断る理由が全く無いというのは返事としてどうかしら?」
「え?」
「もう!謹んでお受けします!という事!!」

 

ご挨拶
(1)宮崎編

作・ロイさん



 波多野は今、幸せの絶頂にいた。何故なら『今、あなたにとって一番大切な人は?』と聞かれたら迷わずその名を告げるであろう人と一緒になれる事になったからだ。時には友人として、時にはライバルとして、それがある時を境にそれは恋人という関係になり、そして生涯のパートナーという立場に劇的に変化したのだ。浮かれるなと言われても思わず浮かれてしまう。油断するとすぐに脳裏にその顔が浮かんでしまう。
『ニヘラ〜』
 すぐに締りの無い顔になってしまう。一歩間違えれば変質者だ。いやもう既に片足を突っ込んでいるかもしれないが。
「おっとっと、これじゃあ、いけねぇ。まず第一印象が大事だって言われるからな。」
 波多野は力を込めて顔を無理矢理真面目に戻すと、ある電車に乗り込んだ。

それは住之江競艇場での戦いを終えた波多野がこれから休息を取りながら待ち人がいる所へ運んで行ってくれる電車だった。その電車の行き先を示すボードには『夜行特急彗星・南宮崎行』と記載されていた。

 街が喧騒に慣れだした朝とも昼ともつかない時刻。宮崎駅のホームで青島はその人物の到着を今か今かと待ち侘びていた。そわそわしながら頻繁に腕時計に視線をやる。それは予定時刻に近づくにつれて腕時計を見る間隔が短くなっていた。そして待つのもいよいよ限界に達しようとした時、上部のスピーカーがけたたましいアラームが流れ出した。一気に青島の心拍が上がる。そのアラームが止まると同時に、
『只今、3番線に入りますのは10時36分到着の特急彗星・南宮崎行きです。この電車は次の南宮崎が終点です。白線の内側までお下がり下さい…』
というアナウンスが流れた。青島はそのアナウンスが終わる前からその禁を破らんかとするくらい精一杯身を乗り出してその電車の姿を捉えようとした。もっとも両の足はしっかりと白線の内側に入っていたが。そして青島のその願いを叶えるかの様に、ゆっくりと宮崎駅に突っ込んでくる電車の姿が現れた。程なくしてホームに電車が滑り込むと青島の顔は待ち人の姿を見つける為に必死に左右に動いていた。そしてようやくその待ち人の姿を青島は認めた。
「あっ!!」
 一気に心拍音に続き身体も跳ね上った。待ち人…波多野が同じ様に青島の姿を見付けようとしていた姿が目に飛び込んできたのだ。しかしまるでコントを見ているかの様に互いに右手で相手を指差している姿は非常に間の抜けた物でもあった。
「波多野君!!待ってたよ!」
 波多野が降りてくるドアに近付いていた青島は波多野が出てくると同時に思わず大声で迎えてしまった。
「青島!!」
 波多野は波多野でその出迎えが心底堪らないといった感から青島と同じ位の声を出してしまっていた。そんなある種、異様な光景に同じ乗降客の視線が二人に降り注ぐ。
「「コホン…」」
 その視線に同時に気付き慌てて己を落ち着けるかの様な咳払い。そして青島は少し目線を上げて、
「遠かったでしょ?」
と、波多野を気遣った。
「ああ、結構遠かった。まあさっきまで寝てたから疲れは残ってねぇよ。」
 波多野は大きく頷くと青島の言葉を肯定した。そんな波多野の髪は確かに起きたばかりの動かぬ証拠としてしっかりと寝癖が付いていた。青島はそれを見て少し背伸びをした。その行動に波多野は少し動揺する。
「あ、青島?」
「動かないで。」
 そう言うと手で簡単に波多野の髪を直す。
「はい、ちゃんと後で直しておいてね。」
「あ、ああ、すまねぇ。」
 少しドキドキしながら波多野は青島に礼を言った。もっと別な事を考えていた自分の考えを知られたくない気持ちを隠そうとする様に。そんな波多野を差し置いて青島は言葉を続ける。
「だからあれだけ飛行機を使ってって言ったのに…」
 波多野が住之江でのレースを終えた後に宮崎に来ると決まった時、青島は大阪からの飛行機を波多野に教えようとしたが、波多野がそれを固辞して夜行電車での強行に踏み切ったのだ。それは波多野が極度の飛行機嫌いから来ているが、その原因となったのが青島である事を青島は知らない。というか波多野がそんな事を当の本人に告げられる訳が無い。
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜俺は飛行機が嫌いなの!!」
 理由も言えず、とにかくつっぱねる事にしている波多野はこれまで青島に言ってきた強がりを続けた。
「はい、はい。」
 少し呆れながらも波多野の気性を知っている青島はこれ以上詮索をする事を止めた。そして、
「波多野君、荷物は?」
おもむろに波多野が引っ張ってきている車輪付きの小さめの旅行バッグに目をやった。
「え?ああ、いや大丈夫。引っ張るだけだから。」
 波多野は青島の心使いを嬉しく思いながら首を振った。
「そう…じゃあ、そろそろ行こうか。」
「ああ。」
 青島は波多野の返事を聞くと、波多野を先導するかの様に前を歩き出した。青島はホームから改札へ続く階段を下りながら、バッグから携帯電話を取り出した。慣れた手付きで素早くボタンを押すとそれを耳に当てる。波多野はそれを後ろから様子を伺う。しばらくすると、
「あ、お母さん?」
という青島の声が聞こえ、波多野は身体がガッチリと固まったと自覚した。これから会いに行く青島の母親。青島からは『おおらかだから』という説明を受けているが、緊張するものは緊張する。
「…うん、今着いたから連れて行くね。…うん、大丈夫。それじゃあ。」
 短い会話の中で要件のみを交わして青島は携帯電話を再びバッグの中へしまい込んだ。
「波多野君、お母さん待ってるから…って、どうしたの?」
「え?」
 振り向いた先には手と足が同時に出てすっかり動きがブリキロボットになっている波多野がいた。

「で、ここからどれくらいで青島の家なんだ?」
「車で30分くらいかな。そんなに混む道路は通らないからスムーズに行けると思う。」
「そっか。」
 ようやくブリキロボットから人間に戻った波多野は青島と会話を交わしながら駅の備え付けの駐車場へ向かった。
「波多野君、あれが私の車。」
「お、青島だけに…」
「へへへ。」
 青島が指を指した先には青島の名の通りの明るい青の塗装をした軽自動車があった。内装はこれまた青島らしく、申し訳ない程度にぬいぐるみとシートカバーで彩られていた。その中でも波多野の注目を浴びたのが…
「…ペンギン。」
「あ、あはは…」
青島は苦笑いしながらバッグから今度はキーホルダーを取り出すと、それを車に向けてボタンを押した。即座に車はロックを解除し、ヘッドライトが数回灯った。
「お〜格好良いな〜」
 波多野が感心したかの様に声を上げる。
「波多野君…最近の車はみんなそうだって…」
 車を持っていない(というか免許自体持ってない)波多野に青島は軽く突っ込むと、
「波多野君、助手席に乗って。ああ、荷物はトランクに。」
 青島は波多野にてきぱきと指示すると先に車に乗り込んでトランクを開け、そしてエンジンをつけた。すぐに青島の車から荒々しいボートとは違う静かなエンジン音が生み出される。乗ってくる波多野に少しでも快適になってもらえる様にエアコンの調整をしたり、流れてくる音楽の音量の調整に勤しんだ。そうこうしているうちに波多野がトランクのドアを閉める衝撃を受け、すぐに波多野が助手席に乗り込んできた。しかしその波多野の顔はやや神妙な顔だと青島が感じた瞬間だった。
「青島…」
「うん?」
 無意識的に波多野の呼び掛けに反応する。
「モンキーターンするなよ。」
 波多野が青島の顔を見ながらニッとした。
「!!…そんな事しません!!」
 波多野の神妙な顔の意味を一気に理解した青島は顔を真っ赤にしながら叫んだ。

 青島が運転する自動車は軽快に昼前の宮崎の道を駆け抜けていく。波多野は何気無しに外の景色を見やっていた。そこには東京では植物園でしか見れないであろうフェニックスやソテツが茂っており、南国情緒色濃く残す景色が広がっていた。
『ここが青島の生まれ育った所か…』
 波多野が知らない青島の18年間を知っている宮崎の地。波多野はそう思うだけで少し胸が締め付けられる想いがした。いつもの波多野であればそんな事すら考えもしなかっただろうが、おそらく一生で一回しか無いであろう経験がそうさせたのだろう。
「…青島。」
「ん?」
 窓の外に視線を送ったまま波多野は声を掛け、青島も前を向いたままそれに答える。
「宮崎は好きか?」
「え?何、突然?」
 少し視線の端に波多野を映しながら青島が波多野の一見不可解な質問に不思議そうに尋ねる。
「え、ああ、いや別に…」
「…好きよ。人も、気候も、全部があったかくて…」
 しどろもどろとした波多野の答えから青島は波多野が確固たる意味を含めて発言したのでは無い事に気付きながらも、その問いに真っ直ぐに答えた。
「そ、そっか…」
「でもどうして?」
 波多野が少し視線を下げ、何か考えている様子を雰囲気で掴んだ青島は逆に質問を波多野に浴びせる。その逆襲に波多野は思わず顔を上げ、青島の横顔を見やった。右手の人差し指で自分の頬を掻く。これから言う自分の言葉に照れない様に。
「え?青島が生まれて…それで好きな所なんだから俺も好きにならないとなって…」
「…波多野君。」
 青島は心の中から無性に『嬉』の文字が生まれ、そして零れ出した。
「色々教えてくれよな。」
 波多野は青島の横顔を見ながら波多野は言った。青島はその顔を真正面から見る事が出来ないもどかしさに襲われたが、
「うん!!」
 その代わりになれと言わんばかりの大きな返事と大きな頷きで返した。
 
 それから十数分。青島の言った通りの時間で目的地の青島の家に着いた。今は亡き青島の父が建て、青島が守り通した家だった。波多野は車から降りてすぐにその家を仰ぎ見た。す〜っと息を大きく吸い込む。SGの優勝戦にも勝るとも劣らない緊張に押し潰されない様に自らを奮い立たせる。
「…ん?」
 波多野は2階の窓から視線を感じた。しかし波多野がそれに気付くと同時にさっと消え去っていた。
「?」
「どうしたの、波多野君?」
 波多野の背後から青島が近付き声を掛ける。
「ん…ああ、いや何でも無い。」
 視線を上にしたまま波多野は答えた。
「そう?」
 青島は少し怪訝な顔をしたのが、
「それじゃあ、行こ!」
「ああ。」
 再び青島が先導する形で歩いていき、波多野は大人しく付いて行く。そしてドアの前で少し立ち止まった。
『ああ…もうこりゃ逃げられないな…大人しく』
 今更だがな…波多野は内心でそう思いながらも勤めて冷静を演じていた。…が、
「波多野くん…それ押さなくても大丈夫だから。」
「え?」
 青島の言葉で我に返る波多野。この家の住人でもある青島が真横にいるにもかかわらず、右手はインターホンに手を掛けてしまっていた。そんな波多野に青島はクスリと笑う。
「大丈夫だから。ね?」
「お、おう…」
 青島の笑顔に波多野は幾分か落ち着きを取り戻した。そして、
「ただいま〜」
「お、お邪魔します!!」
 …………………………………………………………………………………………………………。
「「?」」
 2人の言葉に返すのは静寂のみでこれには波多野だけでなく青島も首を傾げる。
「おかしいな〜お母さん、皆待ってるって言ってたのに…」
 そう呟きながら青島は靴を脱いで家に上がる。波多野もそれに倣って上がる。玄関からは左手に引き戸、奥にはドアと階段が、そして右手にドアがあった。青島はその右手のドアに手を掛けて押した途端、
「「「おかえり〜」」」
「わっ!」
 波多野から見えない右手の部屋…おそらくリビングの方からハモった声が聞こえ、それに合わせて青島はそれに気圧される様に上体を思わず後ろに反らした。
「?」
 訳のわからない波多野はとりあえず「お邪魔します。」と小さな声を紡いでから玄関を上がり、そして青島の視線の先の正体を確かめるべく、顔だけを右の部屋へ向けた。その途端、
「あ〜この人が波多野さん?」
「結構間が抜けてそう。」
「こら、初対面からそんな事言っちゃ駄目でしょ!」
 波多野に向けて色々な言葉が襲い掛かってきた。余りに唐突な出来事に波多野は目をパチクリさせる。そこには言葉とは裏腹に行儀良く座っている3人の女性がいた。その間に何とか立ち直った青島が波多野の背中を優しく押す。
「…入って。」
 無言の了解の様に、波多野はそれに従って部屋に入った。少し後ろから青島が、
「私のお母さんと妹2人。」
「「初めまして。」」
 青島の言葉に無言で、しかし笑顔で会釈する母親と明るい笑顔と共に明るい言葉を送ってくる妹2人。波野はそれに軽く一礼した。
「初めまして、波多野…波多野憲二と言います。」

 そこからは怒涛の展開と言っても良かったのかもしれない。青島から波多野については話は聞いていただろうが、実際に自ら聞いてみないと気が済まなかったのだろう。出会いとか何時から付き合ってるとかこんな姉のどこが気に入ったのか(青島の文句付き)などなど…とにかく思い付く限りの質問を浴びせられた。ようやく一通りの質問が終わった頃にはもうすっかり日は暮れてしまっていた。そしてふと思い出したかの様に青島が3人に声を掛けた。
「そういえばあいつは?」
『あいつ?』
 突然の青島の言葉に思わず波多野は青島の方へ顔を向ける。
「ああ、2階よ。」
「呼んで来ようか?」
 そんな波多野を尻目に2人の妹が答えた。その時だった。
「その必要ねぇよ。」
 青島の家に入って初めて聞く低音の男の声。気が付くと部屋の入り口に突っ立っている男がいた。
「あ〜盗み聞き〜」
「盗み聞きは良く無いぞ〜」
「たまたま下りてみただけだよ。まあ姉貴の相手を一目でも見ておきたかった事もあるけど。」
 妹達の抗議をあっさりとかわして男は波多野の顔を見る。少しその迫力に圧される波多野。
『誰なんだ、こいつは…』
「えっと、弟…」
 波多野の心を見透かす様に青島は軽く男の紹介をした。
「あ、ああ、弟さん…波多野憲二と言います。…そのよろしく。」
「どもっす。」
 ややしどろもどろの波多野に反して実に堂々としている弟はドッカと座る。周りの和やかな雰囲気などお構い無しだ。全員が弟の発言を待った。
「波多野…憲二…でしたね?」
「え…ああ、はい。」
「よいっしょっと…」
 波多野の名を念を押して確認すると、弟は声を一緒に『ドカッ!』という音と同時にテーブルに何かアルバムらしき装飾付の本を置いた。そしておもむろにそれを開く。
「あ!どこからそれを持ってきたのよ!」
「姉貴の部屋〜」
 さも同然だと言わんばかりに弟は青島の追及から逃亡する。
「勝手に入らないでって言ったでしょう!」
「あ〜うるさい、うるさい。」
 弟が今開こうとしているそれが何か分かった青島は急にそれに向けて手を伸ばして奪い取ろうとした。しかし弟はあっさりとその攻撃をかわしてページを開き続ける。波多野も薄々それが何かは分かったが敢えてこの2人のやり取りを面白そうに見やっていた。
「ああ、あった。あった。これがあんただろ?」
 弟は目的のページに辿り着くと未だに奪い取ろうとする青島の手を巧みに避けながら波多野の目線にその本を置いた。そこには白い帽子に白い服、そして無邪気に左手でカメラに向かってピースをしている青年間際の少年が写っていた。傍らには波多野の右手でアームロックをくらっている少年がいた。
「…これは俺と純…」
 そう、そこに写っていたのは本栖研修所時代の波多野と純こと岸本であった。言うまでもなくこの本は彼ら82期の成長を綴ったアルバムであった。波多野も持ってはいたがここ数年は本棚の飾りとなっており久々に見る写真は逆に懐かしさを増幅させた。
「で、これが姉貴…っと。家じゃこんなにおしとやかじゃなかったけどな。」
「ちょ、ちょっと!!」
 まだ抵抗を続ける青島を完全に手玉に取りながら弟は次のページを開いてある写真に指差す。反射的に波多野もその写真を見る。そこにはやはりまだ少女と言ってはばからない頃の青島が小林と行儀良く立っている姿が映っていた。
「そうそう、とてもじゃないけどこんなにおしとやかじゃなかったですよ〜」
「波多野君までそんな事を言わないで〜!!」
 波多野は笑いながら弟の話題に乗り、青島は更に顔を赤くして抵抗しようとし、周りの母親と妹達はそんな3人を楽しそうに眺めていた。

 結局その夜はたくさんの歓迎のご馳走が振舞われて深夜まで大騒ぎの宴が展開された。おそらくこの家が深い悲しみにくれてから一番の明るさが訪れた時だったのかもしれない。

 そして次の日の朝…前夜の疲れも残っていたものの、青島の家族に見送られ次の目的地に向かうべく青島の家を出発した。今度は波多野と青島の二人で。何しろ二人ともA1級の一流レーサーであった為、一日も無駄にできなかったのだ。その車中…
「ごめんね、昨日は弟がいきなり失礼な事しちゃって。」
 不意に青島は波多野に真剣な眼差しで詫びた。しかし、
「え?何で?」
 波多野はその青島の謝罪に目を丸くして何の事だ、と言わんばかりの顔で聞き返す。
「何で…って、いきなりタメ口だったし…」
「ああ、全然気にしてねぇよ。むしろ面白い弟さんだなって思ったぜ。流石に最初は面食らったけどさ、色々俺の事知ってたのは悪い気しなかったな。」
 そう、実は青島の弟は波多野のファンであったのだ。話によると、弟はイン逃げが一番好きではなく、アウトから豪快にマクるレースの方が興奮するとの事で、その弟好みのレーサーとしてずっと前から知っていたのだと言う。要するに最初の無愛想は嬉しさの裏返しであったのだ。そして何より波多野が一番驚いた事。それは、
「そうなの。波多野君が怪我した福岡のレースも直接見に行っていたんだよね…」
 少し目を宙に泳がせながら青島が呟く。
「そこまで見に来てくれるヤツが自分の義弟(おとうと)になるんだから嬉しいよな。俺には弟いねぇし。」
 波多野の顔には全く澱みの無い表情で青島の言葉を綺麗に打ち消した。悲しき思い出では無く、むしろ人間として成長させてくれた素晴らしき思い出として残したかったから。
「…波多野君。」
 青島の顔にいつもの笑みが戻る。波多野をいつでも励ましてくれる笑顔を。その顔を見て波多野は満足そうに頷いて。
「さ、行こう、行こう。次は福岡だ。」
「うん!」
 青島が運転する車は快調に次の目的地、福岡へと向かっていった。


続く。

 


 

 え〜初の長編の第一作目です。何だか話を広げすぎてまとまりが無くなってしまったかな?と思いますがお送りさせて頂きます。今回の長編のコンセプトはお読み頂いたらお分かりになる通り、「波多野と青島の結婚報告巡礼の旅」でございます。このあとどこへ行くのかは大体想像付くと思いますが最後まで気長に付き合って頂ければ嬉しいです。あ、それから旅での細かい描写に関しては全てネットで情報収集している為、実際とは若干違う所もあると思います。というか研修所の卒業アルバムなんてあるかどうかが一番わかりませんが。ちなみに気付いた時は公表せずにご連絡下さい。コソ〜ッと直させて頂きます(笑)

 

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