志摩子さんち

 

「こっちです。祐巳さま、由乃さま」

いつもは大人しい乃梨子ちゃんが、少しはしゃいだように手招きする。

黒髪おかっぱ少女の姿は、山門に続く参道の風景にすとんと収まっていた。

「乃梨子ちゃん、まるで自分の家みたいだね」

ほほえましいなあ…と祐巳が感想を漏らすと、由乃さんもうんうんと頷いた。

並んだ志摩子さんは、少し照れくさそうに、少し誇らしげに微笑んだ。

 

 

「なんだか夢みたい。こうしてお友達を自分の家にお招きする日が来るなんて…」

志摩子さんは、少し遠い目をした。

その言葉の意味を理解している祐巳と由乃さんは、同級生にして良き友である白薔薇さまの手を両側から片方ずつつないだ。

「………」

「ふふ」

「ふふふっ」

3人の少女は、誰からともなく笑い出した。

 

 

「志摩子さん、早く早く。私が先に入ってどうするんですか」

1人、先を歩きながらのけ者にされた格好の乃梨子ちゃんは、少しすねたように振り向いた。

「そうね、乃梨子。今行くわ」

繋がれた祐巳と由乃さんの手を、一度きゅっと握ってから、志摩子さんは先に歩き出した。祐巳と由乃さんは顔を見合わせてから、あとに続いた。

なんだかいい気分だった。

しばらく行くと、山門の向こうの小寓寺のたたずまいと、周りの景色が見えてきた。

 

 

祐巳と由乃さんの瞳に映ったもの。

それは…。

 

「イチョウだ…」

「イチョウだね…」

「………」

「………」

祐巳と由乃さんは、あとは無言で参道を歩く。

志摩子さんの好みというか趣味は、ここで培われたんだなぁ…と、口には出さずとも考えていることは同じだった。

 

イチョウは葉が多いから寺男さんは大変だ。

2003.05.08

 

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

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