祐巳さんち |
「お母さま、本日は突然お邪魔して申し訳ありません」 「まあまあまあまあまあ…っ、どうしましょう。我が家に薔薇さまをお招きするなんて!」 よそ行きモード全開の佐藤聖さまに、涼しげに微笑まれて、祐巳の母はすっかり舞い上がってしまった。 「お母さん。今はもう薔薇さまじゃなくて、前白薔薇さまだってば」 祐巳が突っ込むが、福沢母は全然聞いていない。 「これ、つまらないものですが」 「あら、まあ、そんな気を遣われなくてよろしいのに。そうですか、すみません。ちょっとお待ち下さいね」 言葉遣いからして、すっかりリリアン時代に戻ってしまったようだ。福沢母は、あたふたと奥へ入った。
|
「祐ー巳ちゃん♪」 福沢母が居間へ消えるが早いか、聖さまは猫の皮を脱ぎ捨てて、祐巳に抱きついた。 珍しく正面から抱きつかれた祐巳は、聖さまの胸に顔を押しつけられて、むぎゅっと呻く。 「何度か電話で話したことはあったけど、いいお母さんじゃない。それに、可愛い」 「か、可愛い?」 「さっすが、祐巳ちゃんのお母さんなだけはある」 祐巳の頭の中に、子供からお年寄りまで、女性に優しい佐藤聖という、いつかのキャッチフレーズが浮かんだ。
|
ぱっ。 突然、聖さまの腕の中からあっさり開放された。 祐巳があれっと思う間もなく、福沢母が玄関に戻ってきた。 「さあ、どうぞどうぞ。狭いところですが」 キリッ。 「はい、それではお邪魔いたします」 口調どころか表情まで完全に切り替えて、聖さまは靴を脱いで玄関を上がった。 すごい変わり身…。
|
「よ。祐麒、元気か?」 「あ、はい」 階段の途中で玄関を見下ろしていた祐麒に、パチリとウインクなんか飛ばしてから、聖さまは居間へと入っていった。 「相変わらずすげえな、あの人…」 あきれるのを通り越して、感心したように呟く祐麒に、祐巳はただただ、ため息をつくしかできなかった。
|
祐麒くん、初登場。 |
2003.05.11 |