黒薔薇さま |
生徒会役員選挙の公示から数日たったある日のこと。
廊下を歩いていた由乃さんは、右前方に敵発見せり。 ロサ・カニーナこと蟹名静さまが、涼しげな顔をして歩いている。 本日は珍しくお供の同級生たちを連れていないので、顔もハッキリ見える。 あれが大好きな令ちゃんの敵…。
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「あら、ごきげんよう」 「!」 こちらに気付いた静さまは、にっこり笑った。 いきなりフレンドリー攻撃を受けた由乃さんは一瞬、硬直する。 しかし、すぐに体勢を立て直す辺りが、祐巳さんとは違う。 「ごきげんよう。ロサ・カニーナ」 皮肉を込めて言ったのだが、相手はまるで動じない。 「ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン・プティ・スールの島津由乃さんね。くす…舌を噛みそう」 ムカッ。
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いけないいけない、ここで挑発に乗っては。 由乃さんは笑顔をつくろったまま、内心、大きく深呼吸。 「でも、うらやましいわ」 「…なにがですか?」 スマイル、スマイル。 「あなたのお姉さま、黄薔薇のつぼみの支倉令さん。同性から見ても、素敵ですものね。…ときめくわ」 「!!!!!!!」 敵、敵、敵、敵ーっ!この女は敵、大!決!定!
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「失礼しますっ!」 「あらあら…」 どすどすどす!と廊下を踏み抜きそうな勢いで去っていくお下げの下級生を見送って、静さまは軽くため息をつく。 「静さま」 「あら、祐巳ちゃん」 一部始終を見ていたのか、祐巳さんが困ったような顔をして立っていた。 「由乃さんをあんまりからかわないでくださいよ〜」 「だって、あんまり敵意むき出しの目でこっちを見てるからつい、ね」 くすくすと、ロサ・カニーナは悪戯っぽく笑った。
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静さま「草むら〜に、名も知れず〜(美声)」 |
2003.05.16 |