リリアンのなぞ |
ジャー…。 カチャカチャ。 薔薇の館の2階。 放課後のひととき、ささやかなお茶会が済んで、洗い物を始めようとした祐巳さまと由乃さまを制して、乃梨子は率先して洗い場に立っている。 乃梨子は体育会系と縁はないけれど、やはりこういう場合、上級生に片づけさせるわけにはいかないではないか。 大変なわけでも、寂しいわけでもないが、こういう時は一年生が自分だけというのが、少し物足りない気もする。
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瞳子は最近あんまり顔を出さないし。 ふう、と軽くため息。 彼女の場合、来たら来たで、また色々と大変なのだが。 乃梨子は最後のティーカップを洗い終えると、水を切るため、流し台に伏せて置いた。 この間にテーブルを拭いちゃおうと、布巾を持って室内に戻る。 「ごくろうさま」 志摩子さんが微笑んでくれる。 なんとなく嬉しくなって、乃梨子も笑い返した。
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テーブルに近づいて、ふと室内を見回す。 由乃さまは黄薔薇さまと楽しそうにおしゃべり中。 祐巳さまは何かの計算をしているようだが、隣で書類に目を落としている紅薔薇さまをちらちらとうかがって、気もそぞろな様子。 いつもの人々、いつもの風景。 そこに、乃梨子が何気なく爆弾を投げ込んだ。 「そういえば三年生の方々って、もう修学旅行に行かれたんですか?」 ぴしっ。 はっきりと音を立てて、紅と黄の薔薇さまが固まった。
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「秋は文化祭、受験のある方もいるでしょうから、普通は春ですよね?あ、それとも2年生のうちに行かれたんですか。…でも、それにしては、お姉さまや祐巳さまたちも、そんな様子ないですし」 言われてみれば確かに…と志摩子さんと祐巳さん、由乃さんの二年生トリオは顔を見合わせる。 「乃梨子ちゃん」 ゆらり、と紅薔薇さまと黄薔薇さまが立ち上がり、それぞれ乃梨子の右肩と左肩に、ぽんと手を置く。 「世の中にはね…」 「触れない方がいいことがあるんだよ」 「は、はあ」 お二人の無表情っぷりが恐くて、乃梨子はこくこくと頷いた。
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リリアンは一貫教育だから小学校の時だけ(うそ)。 |
2003.05.21 |