かいそう |
「あ、プールのにおいがする」 ビスケット扉を開けて室内に入ってすぐ、あいさつもそこそこに祐巳は言った。 「すみません、私です」 まだ乾ききっていない艶やかな黒髪を志摩子さんに梳いてもらっていた乃梨子ちゃんは、いたずらを見つかった子どものように、恥ずかしそうに目を伏せた。 「午後の体育がプールだったもので…」 「ふーん、そっか」
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「はい。いいわよ、乃梨子」 「あ、ありがとう」 祐巳は、志摩子さんと目線を合わせると、どちらからともなくフフッと笑った。 「乃梨子ちゃんの髪、綺麗だよね」 「どうも…」 乃梨子ちゃんは、ますます縮こまる。 「…祐巳さまは、プールの時は髪、どうするんですか?」 話題を変えるように、乃梨子ちゃんは言った。
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「私?ほどくよ」 「終わった後は?」 「うーん、プールの後は結ぶのはあきらめるな。私の髪、手強いんだよね」 ため息をつきながら、祐巳はお下げを手に取った。 「でも、どして?」 「いえ…ちょっと思い出しちゃったもので」 「?何を」 「瞳子なんですけど…」
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「あの子、あの通りの髪型でしょう?キャップは付けてるんですけど、泳ぎ終わったあと、大変なことになっちゃって。…まるでワカメのように」 「ぷっ」 想像して、思わず祐巳は吹き出した。
「へっくちん!」 「あら、瞳子さんお風邪?」 「いえ…平気ですわ。ほほほ」 なんなのかしら、今の悪寒は…。
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縦ロールやぶれたり。 |
2003.05.22 |