こばんざめ |
「久しぶりね、祐巳さん」 座ってて、と言って加東景さんは、キッチンに立った。 「お邪魔します」 律儀にぺこりと頭を下げてから、祐巳は腰を下ろした。 「コーヒーでいい?」 「あ、お構いなく…」 景さんは、ケトルをコンロにかけて火を付けた。 ええっと、クッキーの缶どこへやったかしたら…と棚をごそごそし始める景さんを横目で見ながら、祐巳はカバンを置いて室内を見回した。
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室内は、以前来たときとほとんど変わりがない。 なんか、ここ落ち着くんだよな…と、祐巳はホッと丸い息をつく。 ふと、箸立てが目に入った。 女性が使うような朱塗りの箸に、なんとなく男物っぽい黒塗りの箸。 さらに、前回来たときには見た覚えのないマグカップ。 チラリと洗面所に目をやると、コップに歯ブラシが2本…。 「お待たせ。ミルク、好きなだけ入れてね」 2人分のカップと、ミルクピッチャーの乗ったお盆を持って、景さんが戻ってきた。
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どきどきどき…。 「祐巳さん?」 「へにゃっ?!」 「どうかした?顔赤いけど…」 「い、いえその…」 思わず、歯ブラシ2本に目が行ってしまった祐巳の視線に気付いて、景さんは、ははあ…とわずかに苦笑した。 「もしかして、私が同棲始めたとか思ってる?」 真っ赤になってうつむく祐巳に、景さんはため息を付いた。 「だったら、まだいいんだけどね」
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「こんちゃー。肉買ってきたよ、肉。今日は焼き肉ね」 遠慮という言葉をどこかに置き忘れてきたような声とともに、スーパーの袋を下げた聖さまが、ずかずかと上がり込んできた。 「あれえ、祐巳ちゃんがいる。わーい」 にかっ、と笑うと、お約束のように祐巳を抱きしめる。 「…この人、何とかしてくれない?」 あきれ顔で、景さんは眼鏡の位置を直した。 いや、何とかしてと言われましても。
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景さん「弓子さんが気に入っちゃって…入り浸りなの」 |
2003.05.23 |