れんこう |
「あ、いらっしゃい祐巳ちゃん」 畳に寝そべりながら、にっこり笑う聖さま。 この部屋の主である景さんは、その隣であきらめたようなため息をついただけ。
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「聖さま。…念のためお聞きしますけど。『遠慮』って言葉、知ってます?」 全身から力が抜けていくのを感じながら、祐巳は言った。 「もちろん、知ってるよ」 何を心外な、と言わんばかりの表情で断言する聖さま。 「もういいです。…今日は助っ人を連れてきましたから」 「へえ?」 むしろ面白そうな表情で、体を起こす聖さま。
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「こんにちは。加東景さんですね、突然お邪魔してすみません」 艶やかな黒髪を首の辺りで綺麗に切りそろえたシックな装いの美女が、丁寧にお辞儀をする。 「ごきげんよう、聖」 にっこり。 「やあ、蓉子」 聖さまは笑みを返したが、どことなくぎこちなく引きつっている。こめかみに汗が伝う。 「ちょっとお邪魔しますね」 どうぞ、という景さんの声を確認してから、蓉子さまは部屋に入ると、流れるような足取りで聖さまの前に来ると、その耳をむんずと捕まえた。
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「さ、帰るわよ聖」 「あいたっ、ちょ、ちょっと耳引っ張らないでよ蓉子!」 「どうも、本当にお邪魔しました。また、あらためてご挨拶に伺いますから」 おほほほ、とお上品に笑いながら、蓉子さまは聖さまを引っ張っていく。 「まったく、あなたは何考えてるの」 「だって、ここ居心地いいんだもん」 「あなた、猫? ウチには泊まったこともないくせに…ぶつぶつ」 「あいたた、痛いってば蓉子!」
かくして、嵐は去った。 「あの佐藤さんを手玉に取るなんて…あの人すごいわね」 どこか気抜けしたように、景さんは呟いた。
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蓉子さま、ジェラシー炸裂(違)。 |
2003.05.24 |