@
お姉さまとわたし |
その方がとてもお怒りになっているのが、私にはわかりました。 形の良い眉が不快そうに歪められるのを見るのは、とても悲しくて、私の口から出たのは、思っていることとは全然別のことでした。 『ごめんなさい…』 『なぜ謝るの』 強い口調で、その方は頼りない私の心を問い詰めます。 『あなたが間違ったことをしていないのなら、謝る必要なんてなくてよ』 鼻の奥がツン、としました。 今にも何かが溢れ出しそうで、私は固く口を結ぶしかありませんでした。
|
『そうやって、今度は黙り込むのね』 その方の輪郭が、次第にぼやけ始めました。 違うんです! そう叫びたかった。でも、声にすれば、一緒に何かがあふれ出てしまいそうで、私はただ、うつむくしかできませんでした。 『そう…わかった。もういいわ』 ため息と共にはき出されたその声には、哀しい響きが混じっていました。 待って! 遠ざかる背中に向かって、私は必死で呼びかけました。 でも、いくら呼んでも振り向いてはくれず、その姿だけが小さくなっていったのです…。
|
「…という夢を見たんですが」 薔薇の館。 口元に運んだティーカップを下ろして、祐巳は両のお下げをぴこぴこと揺らした。 隣に座った祥子さまは、優雅に紅茶を一口すすって、静かにカップを置いた。 「それで…何が言いたいの、あなた」 「いえ、似たようなことが以前あったなぁ…って」 「…失礼ね。私はそんなに意地悪で怖い女じゃありません」 「………」 祐巳は何か言いたげに、上目遣いで祥子さまを見た。祥子さまは、それには気付かない振りをしている。
|
「………」 「………」 「…ほら、祐巳。タイが曲がっていてよ」 気難しい顔で、タイに指をかける祥子さまに、祐巳の口元がほころんだ。 それが、照れ隠しゆえの行動だと分かったから。 祐巳はその手をとって自分の顔に導くと、頬を擦り付けた。 「ゆ、祐巳…っ?」 大きく目を瞠る祥子さまに、祐巳は弾けるような笑みを見せた。
「お姉さま、大好き!」
|
ギリギリなギャグばかりでは何なので、たまにはお口直しを(^^;。 |
2004.02.05 |