つたとしろばらのつぼみ(商談成立) |
「…申し訳ありませんが」 可能な限り平静を装って、乃梨子は写真を相手に押しやった。 「うーん…いい顔だと思うんだけど」 「どこがですか」 「志摩子さんが」 「え?」 乃梨子はもう一度、写真を見た。 …確かに、驚いている自分の横で、志摩子さんは屈託なく笑っている。それは思わず見とれてしまうような、輝く笑顔だった。
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「………」 「なんだったら、こっちでもいいんだけど」 「…げげっ!」 もう一枚、滑ってきた写真を見て、乃梨子は目を剥いた。 あろうことか、志摩子さんの膝枕でうたたねしている自分が写っている。 「こっこっこっ…」 「よく撮れているでしょう」 眼鏡のその人は、ニヤリと笑った。
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「そうねぇ、タイトルは『かぐわしき白薔薇の午睡』なんてどう?」 「前ので結構です!」 冗談ではない。こんなもの絶対、人には見せられるか。 それにしても、一体いつ撮られたのか。全然覚えていない。 「あらそう?残念…ご協力、多謝!」 なにが、ご協力か。これは脅迫って言うんじゃい。 乃梨子はぶーたれたが、蔦子が相手の同意なしには写真を公開しないということを知らなかったのが運の尽き。 蔦子の作戦勝ち。
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「あー……あの」 「ん?」 「その写真……焼き増しとかは…」 「そう来ると思った。はい、どうぞ」 「…どうも」 考えを見透かされていたようで、気持ちが悪い。 乃梨子はぼそぼそと礼を言って、写真を受け取った。 「その代わり、これからも撮らせてちょうだいね、写真」 バチッとウインクを残して、眼鏡のその人はスキップで出ていった。 乃梨子はようやく気付いた。そうか、あれが噂の写真部エース、武嶋蔦子さま。 「祐巳さまのお友達は、あんなんばっかか」
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志摩子さんも、祐巳さんの友達ですが(笑)。 |
2004.03.02 |