ひなまつらない |
「あかりをつけたら消えちゃった〜♪」 菱餅とひなあられの載ったお盆を手に、絶好調で、ひなまつりの歌(替え歌)を口ずさむ方がひとり。 「お花をあげたら枯れちゃった〜♪」 「………」 「五人囃子が死…」 「やめなさい、聖」 ますます盛り上がる聖に、いいかげん我慢できなくなった蓉子が、シャットダウンする。
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「ちぇ〜、こっからがいいところなのに」 「あのね…」 蓉子は白酒の載ったお盆から片手を離して、こめかみを押さえた。 一体、ひなまつりを何と心得るのか。不謹慎きわまりない。 「いい?雛祭りというのは、女の子の誕生や成長をお祝いする国民の伝統行事として知られているけれど、元々は三月初めの巳の日を、『上巳の節句』といって、無病息災を願う祓いの行事が…」
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「ああ、わかった、わかったから」 くどくどくどと、蘊蓄を交えて始まる蓉子の説教にうんざりしたように、聖は両手を振った。 その、「はいはい」という態度が余計に気にくわないのか、蓉子の眉毛がキリリと上がる。 「あなたって、いつもそうなんだから。大体ね…」 「あっと、そういえば、江利子はどうしたのかな、と」 「ちょっと、聞きなさいよ聖ったら!」 蓉子のおっかない視線から逃れるように、聖は江利子の部屋のドアを開けた。
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「あれっ」 「…雛飾りは?」 先ほどまで、確かにそこにあったはずの豪華十二段にも及ぶひな壇が、きれいさっぱり姿を消している。 「ああ、片づけたわよ」 今日もおでこのまぶしい江利子は、平然と言い放った。 「いつまでも飾っておいて、山辺さんとの結婚が遅くなったらたまらないもの」 「いつまでもって…」 「さっき、飾り終えたばかりじゃないの」 実は、まだ3月2日だった。
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るんるんで飾り付けした蓉子さまがっくし。 |
2004.03.03 |