ひょうたんからネギカモ |
それは、高等部の入学式を終えた翌日のことだった。 剣道部への入部届を出した帰りの昼休み、体育館から校舎へ至る並木道を支倉令は歩いていた。 すれ違う生徒たちが、興味ありげな視線を送っては、ひそひそと囁き交わす。 そういう反応には、中等部時代からすっかり慣れっこになっている。 入学式に合わせて少し短くしたベリーショートの後ろ頭は、少しスースーした。 空は快晴。令は大きく伸びをした。
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その時、あっ!と背後で小さな悲鳴が上がった。 令は反射的に振り返る。 「それ、受け止めて!」 同じリリアンの制服を着た生徒が倒れ、目の前に宙を飛んでくる物体が見えた。 はっし。 剣道で鍛えた反射神経と動体視力は、迷わずそれをつかまえていた。 ……ロザリオ?
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「大丈夫ですか?」 元来、お人好しの令は、頼まれもしないのに、手を差し伸べて彼女を助け起こしていた。 赤いヘアバンドで大きく開いたおでこがきらりと光る。 あれ…この人、と思った瞬間、彼女がにっこりと笑った。 「ありがとう、落とさないでくれて」 「いえ…」 「これで今日から、あなたは私の妹ね」 「…………………………は?」 「今、受け取ってくれたじゃない。ロザリオ」 「ちょ、ちょっと待ってください…」
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慌てふためく令に、彼女は慈悲深く微笑み、あなたはまだ新入生だから、知らないかもしれないけれど…と続けた。 「約2割の生徒が、こうして姉妹になるのよ(大うそ)」 「ええっ?!」 くっくっ…と笑いをこらえながら、彼女は令のおでこをつん、とつついて身を翻した。 「私は黄薔薇のつぼみ、鳥居江利子。放課後に薔薇の館で待っているわ。ちゃんと来るのよ、支倉令ちゃん?」 え…? あの…ちょっと? 後にはただ、ぼーぜんとロザリオを握りしめたベリーショートの少女だけが残された。
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意味:妹候補を物色する江利子さまの前に令が現れること。 |
2004.03.22 |