はじまり |
「もうそろそろ、正直に話してもいいんじゃない?」 放課後―――学園祭の劇の練習を終えた薔薇の館。 帰り支度を済ませた祥子に、紅薔薇さまが問い掛けた。 「正直? 何をですの、お姉さま」 「福沢祐巳ちゃんのこと、よ」 困った子ね、とでも言うように肩をすくめながら、紅薔薇さまは祥子に言った。 テーブルの端では黄薔薇さまが目を輝かせて、窓際では白薔薇さまが興味深そうに、それぞれ二人のやり取りを見守っている。 「祐巳が何か」 鞄を持ったまま、祥子は静かに振り返った。
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今日初めてのダンス練習を終えた1年生の福沢祐巳は、志摩子たちと共にすでに帰路についているはずだ。 「どうして、妹になんて?」 紅薔薇さまは、誇り高い妹を優しい目で見つめた。 姉妹はしばらく見つめ合っていたが、やがて祥子の方が折れた。 「…確かに。もうお察しの通り、祐巳と会ったのは昨日が初めてです」 「おや…」 「割とあっさり認めたわね」 白と黄の薔薇さまの茶々に構わず、祥子は続けた。 「ですが、決してあの場を逃れるために妹にしようとしたわけではありません」
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「では、どうして?」 「お姉さまは、どうして私を妹になさったのですか?」 逆に、祥子は聞き返した。すると紅薔薇さまは笑って、組んでいた指を組み替えた。 「私の妹はあなたしかいないと思ったからよ、祥子」 一分の迷いもない紅薔薇さまの言葉に、白薔薇さまは思わず口笛を吹き、黄薔薇さまは面白そうに腕組みした。 「…よく、真顔でそういうこと言えるね」 茶化す白薔薇さまに、紅薔薇さまはにっこりと笑い返した。 「それはね、いま言ったのが嘘偽りのない言葉だから」 ごちそうさま、と黄薔薇さまは肩をすくめた。
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「私も同じです」 「………」 「私の妹は、祐巳しかいないと思ったからです、お姉さま」 「…そう」 紅薔薇さまは一度目を閉じ、そしてゆっくりと開いた。 「私としては、あなたのシンデレラが見たいのだけれど」 「残念ですわ、お姉さま。そのご期待には応えられそうにありません」 祥子は気高く笑って、きびすを返した。 「学園祭までに、必ず祐巳を妹にしてみせます」 お励みなさいな。三人の薔薇さまは、華やかな微笑みを返した。
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えらい真面目にショートを書いてしまった(^^;。 |
2004.04.03 |