館の鍵
「祐巳ちゃん、ちょっといい?」 いきなり遅刻して祥子さまに怒られたその日の放課後、祐巳は白薔薇さまに呼ばれた。 「祐巳ちゃんさ、薔薇の館の鍵って持ってる?」 「いいえ、持っていません。」 「やれやれ・・・・ いくら早く来ても、外で待てってのは残酷よね。」 白薔薇さまは頭をかきながら苦笑した。
「リリアンは都市部の女子校なので、やっぱり防犯には気をつかっているの。 特に外部からの侵入なんかにはね。 でも、普通の鍵だと紛失や複製の問題があるでしょ。」 「じゃあ、どうしているんですか。」 「先端技術でね、対象者の動きをセンサーで感じて、それで自動解錠するの。 この薔薇の館は生徒会という立場もあってか、実験も兼ねて使用されているの。」 「すごいんですね。」 祐巳は最先端技術というものには疎い人間だ。 目の前にいる白薔薇さまが急に優秀な科学者に見えてくる。 「じゃあ、今からその鍵となる動きを説明するからね。」
翌日、祐巳は朝早く薔薇の館前に来ていた。 先日に祥子さまに怒られたからではない。 その動きがあまりにも独特で、人目にはあまりつきたくないからだ。 もし蔦子さんや新聞部に見つかったらと思うとゾッとする。 「ふぅ・・・・」 祐巳は精神を集中させる。 できるだけ複雑な動きということで、黄薔薇のつぼみが考えたらしい。 何でも令さまは香港カンフー映画も好きだという。 「ハァッ。」 まず両手を前後に広げる。 勢いよく腕を前向きに5回転、後ろ向きに5回転。 そして体を時計回りに1回転の後、勢いよく右手を突き上げ決めのポーズ! 「・・・あれ?」 ドアは開かなかった。 「どこか間違えたかな。」 日舞をやっている志摩子さんは優雅に踊るらしいし、病弱な由乃さんも軽く開けるという。 「・・もう一度。」
これは、いったい何なのだろう。 過日めでたく孫となっていた祐巳ちゃんが、ドアの前で不思議な踊りをしている。 正直その動作はマジックパワーか何かを吸い取られそうだ。 そして、そこから30メートルほど離れた木の陰で、聖が声を押し殺して笑っている。 江利子も「令や由乃ちゃんに次ぐ逸材を見つけた」ってな表情をしている。 「イヤアァー。」 ブルース・リーのような雄叫びが聞こえてくる。 祐巳ちゃんはかなり必死らしい。 そして、聖はかなり面白いらしい。 「・・・あ。」 別の木の陰で祥子が泣いてる。
(みゃあ)祥子さま、泣いてないで止めろよ(^^;。
2004.04.06