ここは放課後のリリアン文化部のクラブ棟。

「うーん、今日は山百合会のメンバー以外にも、なかなかなものが撮れたわ」

この声の主、カメラちゃんこと武嶋蔦子は、暗室にて今日撮ったフィルムを現像していた。

「とくに、瞳子ちゃんと可南子ちゃんのミルクホールでの冷戦は、見てて楽しかったなぁ」

そんなことを呟いていると、隣から「何でそのことを早く言わなかったの」という大声が聞こえた。

（あら、真美さんが大声上げるなんて珍しい）

興味を持った蔦子は、壁に耳をつけて、壁越しに聞こえる話を聞くことにした。

　

　

「わたしも先日、打ち合わせ帰りの花寺の生徒会役員と、紅薔薇のつぼみを見て、ふいに思い出したのですもの。『あっ、去年のミス花寺だ』って」

「仕方ないわ、だってあのミスコンは偽名ＯＫですし、第一、お姉さまが花寺のミスコン優勝者がリリアンの制服を着ていたってだけで、それを記事にするはずがないから、覚えていてもダメだったでしょうし」

（へぇ、花寺の生徒会役員に１人が去年のミスコンの優勝者ね。それにしても、なんで祐巳さんを見て思い出す？）

「気になって調べたところ、やはり祐巳さまの弟で、福沢祐麒様。しかも驚きなのは、花寺の現生徒会長だということです」

「不覚だわ。祐巳さんに弟さんいるのは知っていたけど、それが同学年で、しかも花寺の生徒会長だなんて・・・。過ぎたことは仕方ないわ。みなさん、このことを記事にするわよ。あなたたちは花寺に行って、詳しい取材と裏付けをしてきて。あたしはつぼみに取材してくるから」

（いい事聞いちゃった。祐巳さんの弟が去年のミス花寺で、現生徒会長だなんてねぇ。こうしてはいられないわ）

　

　

「ゆーみさん」

「あっ、蔦子さん。どうしたの、ウキウキして」

「ねえ、今度の学園祭、祐麒さんも来るのよね？」

「祥子様からの依頼だし、一応、あの子が生徒会長らしいから。だけど練習風景は許可出した日以外撮影不可って…」

「それは了解しているわ（あとは…）」

　

　

学園祭当日のクラブハウス棟。

「な、何かようでしょうか・・・（ヤバイ。今日のこの人、柏木先輩と同じ匂いがする）」

「用があるから、わざわざに人気のないこんなとこに連れて来たんじゃないですか。去年度ミス花寺のフクザワユミさん（逃がさないわよ）」

「！！」

「祥子様やお姉ちゃんにバラされたくなければ、今からこれを着て、このヘアピース被って、あたしについて来てね（ハート）」

「イヤですっ！」

「ならばこうするまでよっ！！」

「うわっ、脱がさないで。あっ、わっ、ぎゃあぁぁぁぁぁ」

「祐巳。あそこに居るの、蔦子さんと貴女よね」

「はい、蔦子さんとあたし（のフリをした、たぶん祐麒）です・・・」

「・・・」

「・・・」

キュンッ

「！！。お姉さまっ、ときめかないでください」

「ダメよ。お持ち帰りするわ」

「あたしたちの劇はっ！！」

「蔦子さん、こちらに来てちょうだい。２人を薔薇の館にお持ち帰りして、撮影会やるわよ！！」

「悦んで！！」