ミカン |
「うわぁ…おミカンが、こんなにたくさん」 テーブル上のかごに山盛りにされたミカンに、祐巳は目を丸くする。 「黄薔薇さまのお裾分けですって。せっかくだから、いただきましょうか」 紅薔薇さまが説明してくれるが、当の黄薔薇ファミリーは現在、薔薇の館にいない。 「では、お茶を煎れますね」 「あー、私、緑茶の濃いやつね」 はい、と志摩子さんが流しに立つ。
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「いただきます。…んー、あっまーい。おいしいです」 早速、一つ皮をむいて口に放り込んだ後、周囲を見渡すと、緑茶をすすっている白薔薇さま以外、まだ誰も食べていない。 「わあ…お姉さま、すごく綺麗に剥かれるんですね」 祥子さまは、薄皮を開いてひっくり返して、果肉だけを口に運んでいる。 「祥子はね、皮がだめなのよ。それがたとえ薄皮でも、許せないのよね」 そういう紅薔薇さまは、白い筋を一つひとつ丁寧に取っている。 「あなた、よく皮ごと食べられるわね」 感心されてしまった。家ではみんなそうするのだが、これは普通ではないのだろうか。
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「私も、薄皮は少し苦手だわ」 向かいの志摩子さんを見ると、薄皮ごと口に含むものの、上手に皮だけ残して食べていた。 「白薔薇さまは…」 「んー?」 らしいと言うか、2〜3個まとめて房のまま口に放り込んでいる。 「…豪快ですね」 「ミカンはこうやって食べた方がおいしいって。祐巳ちゃんも、そう思うでしょ?」
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はぁ…と、あいまいに頷きつつ、ミカンにも人によって色々な食べ方があるんだなと感心する。 「でもね、一番凄い食べ方は、黄薔薇さまよ」 白薔薇さまがずずいと顔を寄せてくる。 「何しろ、まるごとだからね。まるごと」 「え…えーっ!」 そ、それは凄い。 「時には皮もむかずに、もっしゃもっしゃと…」 「祐巳ちゃん。言うまでもなくでたらめだから、騙されないようにね」
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皮ごと食う人には、お目にかかったことないなぁ(^^;。 |
2005.1.5 |