とりかえばや効果 |
まぶしいスポットライトが舞台を包む。 いつまでも鳴りやまない拍手の中で、山百合版とりかえばや物語は幕を閉じたのである。 …………
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「…なあ、祐巳」 何か釈然としない表情で、中納言の姫の娘の衣装を着た祐麒が首を傾げる。 「なに?」 「…俺って、劇に出てたよな」 「はぁ?当たり前じゃない。たった今まで、そこで熱演してたでしょう」
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「いや、そうなんだけどさぁ…なんか、描写されたシーンの数、片手の指で足りるような気がする」 「そ、そんなわけないじゃない」 いくら頑張っても、この物語における男の位置づけなんて、刺身のツマみたいなもんなんだよなぁ…などと、わけのわからないぼやきを漏らす弟を、祐巳は冷や汗混じりに見送るしかできなかった。
…と、嘆く彼であったが、この劇は思わぬ所で重大な波紋を呼んだ。
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花寺学院―――。 学園祭後に突然発足し、急成長を遂げた生徒会未公認同好会「福沢祐巳さんを遠くから見守る会」。 しかし、「とりかえばや」上演後、突然、一派が独立。「祐麒でもいいかもしんない戦線」を名乗る。 互いに相容れぬ存在として、血塗られた抗争を繰り広げるかに見えたが、中立派「とりあえず祐麒を女装させてみよう同盟」の取りなしにより、事なきを得る。 以後、「光の君命」派、「小林も結構いける」派等、新旧会派入り乱れ、運動連・文化連を超えた活動が展開されるに至る。 のちにこれは、「とりかえばやの奇跡」と呼ばれる。
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近代花寺抗争史より抜粋。(大ウソ) |
2005.1.7 |