カッコ令 |
山百合会の定例会合の途中、志摩子さんが報告を間違えた。 「あ、ごめんなさい」 軽く咳払いをして、唇を湿らせるように、ティーカップに口をつける。 珍しいな…と思っていると、向かいで椅子を引く音がした。 「志摩子」 「あ、はい」 椅子を立ったのは令さまだった。
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志摩子さんの顔を覗き込むと、額に手を当てる。 「あ…」 「やっぱり熱がある。…いつから?」 「いえ、大したことはありませんから」 「祐巳ちゃん。下に行って乃梨子ちゃん呼んできて。駅まで志摩子を送ってもらうわ」 「あっ、はい!」
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「あの令さま、本当に大丈夫ですから」 「何言ってるの。こじらせたら大変よ。どうしてもっていう会議じゃないんだから。でしょ、祥子」 ええそうね、と祥子さまも頷く。 「志摩子さん、熱があるんだって?!」 疾風のように階段を駆け上ってきた乃梨子ちゃんは、動転したのかすっかりいつもの呼び方に戻っている。 令さまが乃梨子ちゃんを落ち着かせ、渋る志摩子さんをなだめて、2人はほどなく薔薇の館をあとにした。
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「志摩子さん、ずっと具合悪かったんですね」 三人だけになったので、祐巳がお茶を入れ直す。 「それにしても、よく気付いたわね令」 同じように一緒にいて、分からなかった祥子さまは、少し悔しそうに見えた。 「病人は、由乃で見慣れてるからね」 紅茶に口をつけて、令さまは小さく微笑んだ。 祐巳は思う。 由乃さんが絡まないと、こんなに格好良いのに…。
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由乃「こんなの令ちゃんじゃないっ!」 令「えー?!」 |
2005.1.26 |