難点 |
「ちょっと、失礼します」 お姉さまである紅薔薇さまに断って、蓉子は椅子を立った。 「私も構いませんか?」 黄薔薇のつぼみの江利子も、続いて席を立つ。 無言の了解というやつで、黄薔薇さまは手をひらひらさせただけで、二人を見送った。 ビスケット扉を開けると、蓉子と江利子は連れだって、階下へと降りる。 年代物の階段が、いつものようにギシギシと音を立てた。
|
「いつも思うのだけれど、大丈夫なのかしら。この階段」 形の良い眉を寄せて、手すりに掴まりながらの蓉子が足下を見やる。 「大丈夫なんじゃない?少なくとも、私たちの孫が卒業するくらいまでは」 のほほんとした口調で、江利子が答える。孫が卒業…それは遠い遠い未来の話に思えた。 「私は結構、気に入っているわよ。この建物」 頭の後ろで手を組んで、江利子は背後を振り仰ぐ。 突き当たりの踊り場にはめ込まれたステンドグラスを透かして、幻想的な日差しが差し込んでいた。
|
「私だって、好きよ。古い木造建築だけど、趣があって」 蓉子は先に立って、薔薇の館の入り口の扉を開けた。 「ただ、冬はね」 吹き込んできた寒風に、蓉子は首をすくませた。 そうね、と江利子も同意して、扉をくぐった。 「立地上、仕方のないこととはいえ」 その時、向こうから見知った二つの人影が近付いてきた。 「あれ…二人おそろいで、連れ○○○?私も行く行く」
|
蓉子と江利子は、めまいを覚えたように、同時に額を押さえた。 そう、薔薇の館にはトイレがない。自然、校舎内のものを利用するしかないのだが。 「聖、あなたね…」 だからって、他に言いようがあるだろう。 「逃げようったって、そうはいかないわよ聖。今までの遅れを取り戻すためにも、みっちり薔薇さまの何たるかを教えてあげるんだから」 「いたたたっ…お姉さま痛い、みみ、耳を引っ張らないで!」 白薔薇さまに連行されていく友人を見送りながら、江利子はあきれ顔をした。 「ねぇ。新学期になってから、変な方向に変わってない、聖?」 言わないでよ…。蓉子は深いため息をついた。
|
尾籠な話ですみません(^^;。 |
2005.1.27 |