文化祭から3日目の朝(2) 祥子様の忘れ物編
文化祭から3日目の早朝。 薔薇の館。 昨晩。図書館で祐巳に起こされて、まだ十分に目が覚めていなかったとはいっても不覚だった。 薔薇の館にコートを忘れてしまった小笠原祥子様は早朝から薔薇の館に足を運んだ。 けたたましくヤカンが鳴っている音がして急いで階段を駆け上る。 しかし、部屋にはどういう訳か誰も居ない。 まったくヤカンを火にかけたまま外出するなんて一体誰なの。 と低血圧で幾分不機嫌な思考が自分を苛立たせる。 しかし、山百合会のメンバーの中でそんなポカをやらかしそうな人物は一人しか思いつかない。 困った事にそれは自分の妹。
「さては祐巳ね。」 困ったわね。いくらなんでもヤカンをそのままなんて…少しお灸をすえてあげないといけないかしら。と紅薔薇様の躾の血が騒いだ。 でも、本当に祐巳かしら。最近は蕾になってわりとしっかりしてきたし… 何か証拠でもないものかしら。 そう思って視線を部屋で彷徨わせると…それはすぐに見つかった。 テーブルの上に書置きが一枚。たった一言。
「図書館に行ってきます。」 見慣れた祐巳の字。 字はその人の特徴を表すものというけれど…やはり祐巳の字は形がどこか不恰好でも温か味がある。 贔屓目かしら。自嘲気味にも自然と微笑が零れる。 書置きを鞄にしまう頃には不思議と苛立ちはどこかに消えてしまっていた。 ヤカンのことはともかくとして。 まあ、折角だから紅茶でも飲もうかしら。 そう思ってヤカンを持ち上げると、その重さが都合の良すぎる事実を教えてくれた。
一人分にしては重すぎるお湯の量。 椅子に掛かったままの忘れ物のコート。 答えは一つ。 「祐巳ったら…」 祐巳と自分のカップを用意してお茶を入れる。 祐巳の分だけは砂糖を多めに。 お湯はやっぱり二人で飲むのにちょうど良い量。 肌寒い朝にコートのない私になんて嬉しい祐巳の心配りなのかしら。 しばらくして、足早に図書館に向かっている自分。 多分、理由はお茶が冷めてしまうからだけではないのね。 そんな自嘲的な思考も 二人で紅茶を飲む幸せな朝 その想像を頭から追い出せそうになかった。
(みゃあ)これまた非常にいい話なのですが…?
2005.1.29