文化祭から3日目の朝(4) 大きなお世話?編

 

 文化祭から2日目の夕暮れ。
 薔薇の館には祐巳と瞳子の二人きり。

「大きなお世話かもしれませんが、行き違いになった場合を考えて、紅薔薇様に手紙を残していかれた方がよろしいのでは?」

 祥子様を図書館に迎えに行こうとしたら…
 瞳子ちゃんの慎重すぎる一言。
 しかし、一理あるので「図書館に行ってきます」と書置きを一枚。
 迷った挙句がお姉さまと同じ文章とは…ま、いいか。
 
 瞳子ちゃんがそれを覗き込んで…
 その時、かすかに花のような匂いがした。

 

 

 図書館での居眠りという失態の記憶も新たな『紅薔薇』祥子さまは、しかし、未だ眠ぼけたご様子。二階にまでついてきそうな勢いだった祐巳を姉のプライドで押しとどめ二階に上がってくると嗅ぎ慣れない匂いが微かに香った。
 花のような…お香の残り香のような…とてもほのかな香り…

 (あら、なぜか覚えのある香りだけど…)
 
 そうは思うものの。それに気をとられている時間はない。
 今も下で祐巳達、自分のせいで帰りを遅らせてしまったらしい9人を待たせているのだ。
 急いで自分の席においてある鞄を手に取るとまたあの香り。
 不意に何かの記憶が頭を過ぎった。

 

 

 匂いは人の記憶に作用する一番の要因になる。
 そんなことも思い出されてくる。

 目を瞑ると…何かが頭に浮かんできた。

 赤い…何か…いえ、花ね。赤い花。
 薔薇?そう…薔薇の匂い。それもこれは…ロサ・キネンシス?
 ふと、瞳子ちゃんをなぜだか想像してしまう。
 いえ…そうじゃない。寧ろ逆。
 この香りは今日廊下で会った時に瞳子ちゃんから微かに香ったはず…
 じゃあ、瞳子ちゃんからロサ・キネンシスの香りがしたのかしら?

 

 

 ふと、祐巳と瞳子ちゃんが二人きりで薔薇の館にいる光景が頭を過ぎった。
 でも、何故?…まさか!!でも、それなら…

「お姉様。そろそろ校門が閉まる時間に…」

 階下からの祐巳の声が祥子の目を開かせる。
 いけない。
 鞄を手に急いで階段を下りると、そこには思い浮かべたばかりの二人。

「瞳子ちゃん。何か変わったことなかったかしら?」
「変わったことですか?いえ、特には…」
「そういえば瞳子ちゃん。シャンプー変えた?匂いがいつもと違うよ。」
「祐巳様。紅薔薇様がおっしゃっているのはそういうことでは…」
 
 頬を朱色にして瞳子が紅薔薇の蕾を嗜める。
 そんな二人を視界に留めながら紅薔薇様は静かに微笑んだ。

「あら、そう。もしかしたら、と思ったのだけど…残念。」
 
 三人の声が届く二階にあるのは、忘れ物のコートと残されたままの書置きだけ…

 

(みゃあ)「3」までで置き手紙の主が分からなかった人(私)のための解答編(^^;。でもこれが読めたから分からなくても幸せ(笑)。

2005.2.4

 

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

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