写真部のロザリオ3

 

「笙子、レフ板もう少し前。」

 蔦子さまが私をそう呼ぶようになってどの位経っただろう。
 最近のリリアンは姉妹撮影ブームで、姉妹の誓いをした記念日に思い出の場所で写真を撮るのが流行していた。
 今の写真も、そういう仕事で、スナップではない分、ライティングもちゃんとしようと、私はレフ版を持って蔦子さまの手伝いをしている。

 だから…
 呼び捨てになったのは、多分、撮影の時に指示するのに便利だから…
 蔦子さまが『妹をもたない主義』だと公言しているのは知っていた。

 

 

「全く、姉妹の撮影会も、こう多いとね。日々のライフワークに支障が出るわ。」
「最近、運動部を回れていないですからね。」
「そう、…ねえ、そういえば貴方のお姉さまはどうなさってるの?」
「姉ですか…大学は楽しそうですけど?」
「ふ〜ん。楽しそうか…」

 雑談をしながら、私たち二人は並んで並木道を歩く。
 でも、私の話なんて耳に入っているのだろうか、蔦子さまはマリア像の前でお祈りする生徒を望遠で撮影した。
 思いつめたその表情は、いまから何か一大決心を実行でもするのか良い表情をしている。
 確かに、シャッターチャンスだった。

「ねえ、今さ。大学って言った?」
「はい。」
「実のお姉さん?」
「はい。そうですけど…あの、お姉ちゃんも良い写真だって言ってましたよ。あの写真。」

 

 

「ふっ、はっはっははは。」

 急に蔦子さまが声を出して笑われて、それがあまりに楽しそうだったからか…
 私もつられて笑ってしまう。

「どうしました?」
「ねえ、お姉さんって内藤克美さま?」
「えぇ、あのショコラポートレートの…ご存知だったのでしょう。前にも訊かれましたし…お姉さまがいるかと…?」

「そうか、そうか…」

 

 

「笙子」
「はい?」
「貴方、とても良い表情するようになったと思う。カメラを向けてもあまり嫌がらなくなってきたし…今の笑顔も良い。」

 蔦子さまがシャッターを切って、私の高校生時代の写真がまた一枚増える。

「でも、蔦子さまが撮って下さる時ぐらいですよ。まだ、全快ってわけじゃ…」
「そう?じゃあ、貴方はずっと私の側に居なさいよ。もっと良い写真を撮ってあげるから。」

 それは、多分、私の望んでいた言葉で…
 でも、蔦子さまは妹を作らないはずで…そんなはずはなくて…
 
 そうだけど…
 そうだとしても…

 蔦子さまの言葉以外に、私は何を信じるのだろう。
 答えは決まっていた。
 ただ一言。

 「はい。」

 もうすぐ、衣替え。
 スールの誓いを交わす姉妹が増えはじめる季節。

 

(みゃあ)ホントのところ、笙子ちゃんはどうなるんでしょうね。ぜひとも再登場をっ!

2005.2.5

 

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

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