カニーナ・カンタービレ1 |
「お待ちになって」
とある秋の放課後。 合唱部の練習を終え、音楽室を出ようとして静は呼び止められた。 凛として、よく通る声だった。 「合唱部の方?」 「ええ、そうですけれど」
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向こうは私のことを知らないようだったが、私はその人のことをよく知っていた。 その人の所属するものを、と言った方がいいかもしれない。 二年松組、小笠原祥子さん。 リリアン女学園の生徒会、山百合会の幹部である紅薔薇さまの妹、つぼみ、と。 「こんなことをお願いする筋ではないのだけれど…」 女の自分でもドキリとするような美貌を憂いで曇らせながら、彼女は逡巡するように、視線を落とした。 どうやら、彼女は私に何やら頼み事があるらしい。
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私は俄然興味を引かれた。 見た目通りのお嬢様で、山百合会の一員たる彼女が、同学年とはいえ話もしたことのない私に、どんな頼み事があるというのか。 それに、美少女の憂い顔というのは、どこか庇護欲を刺激される。 「…私でよければ、お話聞きますけど」 彼女は、ほっとしたように微笑みを浮かべると、言った。 『私のピアノをきいてほしい』 …それが、大きな間違いだった。
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「…どう、かしら」 彼女が鍵盤から手を離す。パチパチと、私はお世辞ではない拍手をしてみせた。 それが答えだったのだが、彼女は不満そうに顔を歪める。美人のそういう顔は、どこか迫力があった。 「素晴らしいと思うけれど…?」 「それでは困るのよ。もっと具体的なアドバイスを頂けないと」 「アドバイス?」 おうむ返しに聞くと、彼女は苛立たしそうに眉を寄せた。 「どうやったら、この演奏であの子を妹にできるかのアドバイスよ」 ……はあっ?!
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相変わらず無茶を言う(笑)。タイトルと中身は一切関係ありません(^^;。 |
2005.2.5 |