カニーナ・カンタービレ5 |
それからしばらくして―――。
「ごきげんよう。祐巳さん」 「ロサ・カニーナ!」 ピサの斜塔の下、ドゥオモ広場で祐巳さんと再会した。 修学旅行中の彼女は、とても驚いていた。
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「祐巳さん、妹はまだ?」 「ええ、まあ」 「祥子さまは、うるさく言わない?」 「今のところは」 「そう。でも、そのうち、そうも言っていられなくなるでしょうね」 私は一瞬、遠い目をした。
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電話の彼女が、いずれヴァイオリンを片手に現れるだろうから。 私はふっと笑った。 だいぶ、乾いた笑みだった気がする。 「ジェラートのお店ね。ここを真っ直ぐ行くと、バールとかレストランとかが並んでいる通りに出るの。そこにあるわ」 「え?静さまは?」 「祐巳さんともお話できたから、そろそろ失礼するわ」 そう。ようやく気が付いた。 真に恐るべきは、この天使のような天然ボケをした彼女だということに。
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「それに、今日は暖かいからちょっとね」 そして、私は祐巳さんたちと別れた。 今日の陽気からすれば、ジェラートはさんざんだろう。 フフッ…。 私は、蟹名静。またの名をロサ・カニーナ。 忘れた頃に報復する女。
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被った迷惑を考えると、ものごっつしょぼい報復ですが(笑)。 |
2005.2.10 |