知らぬが仏

 

「あら、お久しぶりね祐巳さん、由乃さん」

十二月のある日の放課後、クラブハウス前。
にっこにっこと、普段あまり見たことのない満面の笑みで立つ、そのお方は築山三奈子さま。

「あっ、ごきげんよう三奈子さま」
「…ごきげんよう」

経験上、必要以上にフレンドリーな三奈子さまは要警戒、と由乃さんは身構える。
しかし、そんな由乃さんに気付いた様子もなく、あくまでにこやかな三奈子さま。

「祥子さんや令さんはお元気?」
「元気です…けど」

背中毛逆立ち、警戒態勢続行、な由乃さんの脇腹を、祐巳が肘でちょいちょい突く。

 

 

「警戒しなくていいと思うよ」
「…なんで?」

小声でぼそぼそ。

「だって、ほら…」

真美さん、と呟かれて、由乃もようやく得心がいく。三奈子さまの妹である山口真美さんには、先日めでたく妹ができたのだった。

「このたびは、おめでとうございます」

祐巳が先陣を切って祝辞を述べる。由乃もここは素直に続いた。

「え?…あぁ、ありがとう」

三奈子さまは不意を付かれたように目を瞬かせた。

 

 

「あら、でも何故知っているの?」
「何故って…真美さんとは一緒でしたし」
「?真美?変ね、この半月部室にも寄っていないし、あの子とも会っていないのだけど」
「へ?」
「じゃあ、三奈子さまは何故そんなに浮かれ…上機嫌なんですか?」
「実はね、先日の模試の結果が満足いくものだったのよ。ああ、これで夏以降の苦労も報われるというものだわ」
「はあ…それは良かったですね…」

失礼ながら、聞いてみれば全然なんということもなかった。

 

 

「それじゃあ、ご存じないんですか。真美さんにいも…モガッ」

祐巳の口を、由乃さんが慌てて塞いだ。

「え?」
「いえ、なんでもありません!それより三奈子さま、クラブハウスにご用があったのでは」
「ああ、実はそうなの。何しろ半月近く、寄り付くのを自粛していたから」

スキップで去っていく三奈子さまを見送ってから、由乃さんは手を離した。

「っぷは。由乃さんたら、どうして…」
「人づてに聞いたんじゃ、余計にショックじゃないの」

真美さんも罪作りよね…と、人ごとのように呟く由乃さんだった。

 

人のことは言えないんじゃないかな、由乃さん(^^;。

2006.1.3

 

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

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