ミルクホールで会えたら

 

ミルクホールは今日も戦場だった。

ときどき、お母さんが寝坊した時などにお世話になるのだが、ふわぁ…相変わらず、すごい。

行く者、戻る者でごった返して、はてどこに並べばよいのか。

「お困りですか?」

祐巳が列にすら並べず戸惑っていると、可南子ちゃんが横に立っていた。

「えへへ、たまに来ると尻込みしちゃうね」
「これと決めたパンはありますか?」
「え?いや、別に…」

 

 

前にも、こんなことあったような…と思っていると、可南子ちゃんは右腕に力こぶしをつくって見せた。

「お任せください」

あっ、と止める間もなく、可南子ちゃんは子羊の大群の中に飛び込んでいった。

強引に道をかき分けるのではなく、わずかなスペースを見つけてはするりと体を入れ、一番短い列の後ろにつく。

わー、部活の成果かなと、見とれていると、ほどなくパンを3個手に可南子ちゃんが戻ってきた。

 

 

「どれにします?」

「んー…じゃ、これ」
「ショコラデニッシュですね。120円です」
「ありがとう…はい!」

代金を渡すと、じゃあ残りは私がと、戦利品を掲げて見せた。

「…最近はパンなの?」
「はい。ここのコロッケパン、おいしいんですよ」

可南子ちゃんは、はにかむように、にっこりと笑った。

 

 

「…うん。可南子ちゃん、一緒に食べよう」

「え?でも、よろしいのですか。薔薇の館へ行かれるんじゃ…」

「今日は可南子ちゃんと食べたい気分なのっ」

可南子ちゃんの手を取ると、祐巳は弾んだ足取りで歩き出した。

ちょっと驚きつつも、可南子ちゃんは素直についてくる。

 

冬の空気は冷たかったが、祐巳の心はなぜだか温かいものでいっぱいになった。

 

あの秋の日から、確かな時間

2006.01.25

爆笑! くすりっ もえ~ じんわり つまんない

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