ミルクホールで会えたら |
ミルクホールは今日も戦場だった。 ときどき、お母さんが寝坊した時などにお世話になるのだが、ふわぁ…相変わらず、すごい。 行く者、戻る者でごった返して、はてどこに並べばよいのか。 「お困りですか?」 祐巳が列にすら並べず戸惑っていると、可南子ちゃんが横に立っていた。 「えへへ、たまに来ると尻込みしちゃうね」
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前にも、こんなことあったような…と思っていると、可南子ちゃんは右腕に力こぶしをつくって見せた。 「お任せください」 あっ、と止める間もなく、可南子ちゃんは子羊の大群の中に飛び込んでいった。 強引に道をかき分けるのではなく、わずかなスペースを見つけてはするりと体を入れ、一番短い列の後ろにつく。 わー、部活の成果かなと、見とれていると、ほどなくパンを3個手に可南子ちゃんが戻ってきた。
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「どれにします?」 「んー…じゃ、これ」 代金を渡すと、じゃあ残りは私がと、戦利品を掲げて見せた。 「…最近はパンなの?」 可南子ちゃんは、はにかむように、にっこりと笑った。
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「…うん。可南子ちゃん、一緒に食べよう」 「え?でも、よろしいのですか。薔薇の館へ行かれるんじゃ…」 「今日は可南子ちゃんと食べたい気分なのっ」 可南子ちゃんの手を取ると、祐巳は弾んだ足取りで歩き出した。 ちょっと驚きつつも、可南子ちゃんは素直についてくる。
冬の空気は冷たかったが、祐巳の心はなぜだか温かいものでいっぱいになった。
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あの秋の日から、確かな時間。 |
2006.01.25 |