ベイクドライスケーキ |
「祐巳さま、よろしいですか?」 ミルクホールを出たところで、可南子ちゃんが立ち止まる。 「実は、先約がありまして」 ちょっと残念な気持ちで、じゃあ仕方ないね、と続けようとしたら、可南子ちゃんはぷるぷると素早く首を振った。 「いえ、よろしければぜひご一緒に」
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「うん、もちろん私は構わないよ」 可南子ちゃんの先約か…誰だろう?と、渡り廊下を渡ったところに、彼女はいた。 「お待たせ」 お弁当箱を入れた袋と、イチゴミルクのパックを持ったその人は、紛れもなく…。 「…ごきげんよう」 祐巳と顔を合わせるなり、ぷいと踵を返す。
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「あら、瞳子さん。今日は一緒にお昼ご飯を食べる約束だったのでは」 その背中に、可南子ちゃんが殊更のんびりと声をかける。 「…そうでしたけれど。お邪魔のようですので」 「誰も邪魔なんて言ってませんよ。そうですよね、祐巳さま?」 文字通り、ぐぅの音も出ない瞳子ちゃん。可南子ちゃんはにこにこ笑っている。
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じーっ…。 「…な、なんですか、その目は」 「勘違いしないでいただきたいのですけど。今日はたまたま、そういうお約束をしましたけれど、別にいつもご一緒しているわけではありませんのよ」 「………」
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まったく、この二人は…と、可南子ちゃんは優しい目で小さく吐息した。 |
2006.01.26 |