お姉さまのつとめ

 

…み。
…ゆみ…「祐巳」
「はっ、はい!なんでしょう、お姉さま」

我に返った拍子にガタンと椅子を鳴らしてしまった。結構、長い間ぼうっとしていたらしい。
お姉さまが呆れたような顔で見ている。…はずかしい。

「お茶をもう一杯おねがいできるかしら…と言ったのだけれど」
「はっ、はい!ただ今すぐに…」

ばたばたばた…。
いかんいかん、とほっぺたを叩いて流しに向かった。

 

 

「祐巳、忘れ物はない?」
「はい。大丈夫です、お姉さま」

もう一度室内を確認して、電気を消す。
誰もいない薔薇の館は、なんだかとても寒々しく、寂しげだ。

「………」
「祐巳ー、行くわよ」
「あ、はい!」

慌てて鍵をかけて、外へ出た。

 

 

「寒いわね…」

ほら、祐巳…と言われて、手袋をし忘れていたことに気付く。
吐いた息が白い。お姉さまの息も、真っ白だ。

「祐巳。よかったらこの後、駅前の書店に付き合ってほしいのだけれど」
「あ、はい。お供させていただきます」

なんだか珍しいな…と、ちらりと覗き見ると、こちらを見ていたお姉さまと目が合う。
お姉さまはサッと目を逸らすと、少し歩調を早めた。
そういえば…と思い出す。今日は随分とお姉さまに「祐巳」と呼ばれた気がする。

もしかして―――

 

 

ずっと…見ていてくださったんですか?

――――きゅぅ…。

「お姉さま!」

てててっ……ぎゅ!

「祐巳…?」
「少しだけ…お姉さまの腕をお借りしても、いいですか」
「仕方のない子ね…」

お姉さまの腕をぎゅっと抱き締めて、えへへと笑った。目尻に浮かんだ雫が、こぼれないように。

 

(大好きです。大好きです、お姉さま…)

2006.01.29

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

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