チャイム

 

「まったく、なんなんですの!」

頭のてっぺんから湯気を噴きそうな顔で、瞳子ちゃんはぺしぺしとテーブルを叩いた。

「お手伝いすることがあるというから、瞳子は来ましたのにっ」
「まあまあ、瞳子ちゃん。部員にけがした人が出ちゃったっていうから、仕方ないじゃない?顧問の先生もいないしで、令さま大変だったみたいだし」

先ほど、薔薇の館まで、同じ剣道部の田沼ちさとさんが事情を伝えに来てくれたのだ。
令さまは、付き添いで病院に。今日予定していたお仕事は、後日に延期してほしいとのこと。

 

 

「…私が言っているのは、由乃さまのことです。黄薔薇さまは仕方ないとしても、何も由乃さままで付き合われることはないではありませんか」

「でもどっちみち、指示を出してくれる令さまがいなきゃ、今日の作業はできないんだし」

「私が言っているのは、そういうことではなく―――」
「心配だったんだよ、きっと」

そう言うと、瞳子ちゃんは眉を寄せて、ぷいと横を向いた。

 

 

キーン…コーン…カーン…コーン―――

 

「あ…」

校舎の方から、遠いチャイムの音が響いてくる。
澄んだその音は、どこか遠く…。
余韻の終わりとともに、ゆっくりと、静けさを運んできた。
窓の外はすっかり紅く染まり、傾いた日差しが床に長い影絵を落としている。

「帰ろっか」
祐巳は、言った。
瞳子ちゃんは、大人しく頷いて、帰り支度を始める。

 

 

「…結局、待ちぼうけで終わりました」

暖房器具を消していると、瞳子ちゃんがぼそりと言った。
祐巳は手袋をしたその手を取る。

「楽しかったよ、今日は」
「…ずっと、お茶を飲んでただけじゃないですか」
「でも、ずっと一緒だったでしょ?」
「………」

憮然としたような、困ったような顔でうつむく瞳子ちゃんの手を引いて、ビスケット扉をくぐる。

お下げが2つ、並んで揺れた。

 

今日は、なんにもない一日。大切な一日。

2006.02.06

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

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