チャイム |
「まったく、なんなんですの!」 頭のてっぺんから湯気を噴きそうな顔で、瞳子ちゃんはぺしぺしとテーブルを叩いた。 「お手伝いすることがあるというから、瞳子は来ましたのにっ」 先ほど、薔薇の館まで、同じ剣道部の田沼ちさとさんが事情を伝えに来てくれたのだ。
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「…私が言っているのは、由乃さまのことです。黄薔薇さまは仕方ないとしても、何も由乃さままで付き合われることはないではありませんか」 「でもどっちみち、指示を出してくれる令さまがいなきゃ、今日の作業はできないんだし」 「私が言っているのは、そういうことではなく―――」 そう言うと、瞳子ちゃんは眉を寄せて、ぷいと横を向いた。
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キーン…コーン…カーン…コーン―――
「あ…」 校舎の方から、遠いチャイムの音が響いてくる。 「帰ろっか」
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「…結局、待ちぼうけで終わりました」 暖房器具を消していると、瞳子ちゃんがぼそりと言った。 「楽しかったよ、今日は」 憮然としたような、困ったような顔でうつむく瞳子ちゃんの手を引いて、ビスケット扉をくぐる。 お下げが2つ、並んで揺れた。
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今日は、なんにもない一日。大切な一日。 |
2006.02.06 |