奥様戦隊・序曲

 

柵で囲われた森と池のある小さな庭。
マリア像の前。

落ち着かなげに髪をいじりながら、蓉子は待っていた。
恥ずかしいことをしているな、という自覚はあった。
でも今日くらい…今日くらいバカになったっていいじゃないかと、自らを奮い立たせる。

「蓉子」

どきん、と胸が高鳴る。
顔を上げると、いつの間にか待ち人が静かに佇んでいた。

 

 

いつも見慣れた顔。
麗しいお姉さまの顔は、優しい笑みをたたえている。
紅薔薇さまにわざわざ伝言まで頼んで、ここまできて頂いたのだ。

「大事な用って、なにかしら」

その声を聞いた途端、顔の温度がみるみる上昇していくのが分かった。

「あの…。こ…これをッ」

色々と用意していた段取りを全部すっ飛ばして、気がつくと、バカみたいにチョコレートの包みを持った両手を突き出していた。

 

 

「私に?」
「はっ、はいっ」

緊張のあまり、目の前がチカチカした。
お姉さまは、くすりと笑うと包みを受け取ってくれた。

「…お堅い子だとばかり思っていたけれど」

次の瞬間、蓉子は温かい感触に包まれていた。

「こんなに可愛いところがあったのね」
なでなで…。
「(赤ぁ〜〜〜っ)」

………。
……。
…。

 

 

翌日。

薔薇の館の前で、江利子と聖がいぢわるそうな笑顔を浮かべている。

「?ごきげんよう」
「マリア像の前はいいねぇ…」
「蓉子…お堅い子だとばかり思っていたけれど」

ブーーーーッ!!

「な…あ…」
「こんなに可愛いところがあったのね」
「こっ…こっ、このぉっ!!」

全身真っ赤の赤だるま状態の蓉子を後目に、江利子と聖はげらげら笑いながら、口に手を当てて逃げ出した。

 

この時は、自分自身がその一員に加わろうとは、夢にも思わない蓉子であった。

2006.02.15

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

お名前  mail

  ご意見・ご感想などありましたらどうぞ。