瞳子と笙子

 

「あら…」

昼休み。ミルクホールへと続く渡り廊下で、二人の少女はばったりと顔を合わせた。
ふわふわ天然パーマのセミロング。かたや顔の両端に揺れる縦ロールが印象的。

「瞳子さん」
「笙子さん、ごきげんよう」

互いに会釈すると、くすりと笑みが漏れた。
どちらからともなく、日射しが差し込んで温かい中庭へ、ゆっくり踏み出す。

 

 

「何だか久しぶり、って感じだね」
「ええ、本当に」

笙子さんとは、中等部の3年次に一緒のクラスだった。
現在は椿組と菊組。決して離れているわけではないが、やはりクラスが違えば会う機会も少なくなる。

「文化祭の劇、見たよ。瞳子さん、すごかった」
「え?いえ、私は別に…」
「とっても輝いてた。中等部の頃から、すごく熱心に部活動してたものね」

そう言って、自分のことのように笑う笙子さん。

 

 

取り留めのない話をしながら、生き生きとした笙子さんの横顔を横目で見る。
自分の知る笙子さんは、こんなにも素敵な顔をしていただろうか。

「あっ」

昇降口が見渡せる場所に来たとき、笙子さんは「瞳子さん、私ちょっと…」と、ごめんねのポーズをしてみせた。

「話せてよかったわ。またね」
「ええ、ごきげんよう」

彼女が小走りに向かう先に、首からカメラを下げた女生徒の姿があった。

「あれは…」

 

 

写真部のエース、武嶋蔦子さま。
駆け寄った笙子さんが、嬉しそうに笑いかける。

蔦子さまがこちらに気付いて、軽く手を振った。
瞳子は礼儀正しくお辞儀をして、踵を返した。

輝いているのはあなたの方ですわ、笙子さん。

(私は…)

きゅっと、唇を噛む。

どうしたら笙子さんのように輝けるのか、本当はわかっていた。

 

そして、今の自分には、それに手を伸ばすことができないことも…。

2006.02.20

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

お名前  mail

  ご意見・ご感想などありましたらどうぞ。