栞 |
「いばらの森」の騒動のあと。年が改まって、新学期が始まったころのことだったと思う。
薔薇の館で、たまたま白薔薇さまと二人になったときに、春日せい子さんとお知り合いになった経緯について聞かれたことがある。 由乃さんに引きずられるようにして、令さまとともに宮廷社へ行ったことを話すと、それは是非とも見たかったと、肩を震わせて笑っていた。
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結局、なぜそうまでして「須加星」の正体を突き止めようと思い立ったのかについても、口を割らされた。 『久保栞さんが須加星』、それが由乃さんが示した確度の高い可能性。 聖さまは目をまん丸にしたあと、ひとしきり笑っていた。 「白薔薇さまは、その可能性を考えなかったんですか」って。
笑うのを止めて、白薔薇さまは一度だけ首を振り、
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「―――栞だもの」
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―――その声があまりにも哀切で、愛おしくて、痛々しくて
一瞬。白薔薇さまのむき出しの心に触れた気がした。 でも、そんな事を考えるのがあまりにも不遜な気がして。 その細波が通り過ぎるまで、端正な顔を見つめ続けた。 …しょせん私は百面相だから、勘のいい白薔薇さまは気付いたに違いないのに。いつもの顔に戻って、私の頬をツン、と突いた。 その時、私は思ったのだ。
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私は私でしかないけれど。大好きだよ、白薔薇さまって。 |
2006.02.25 |