初めての頼みごと

 

3年もこの時期になると、学級閉鎖かというくらい、教室に人気がない。

リリアン女子大合格は決まっていたし、特に登校する必要もないのだが、最近は毎日学校に足が向く。

なぜだろう。

高校生活が残り少なくなって、急にこの場所に愛着を感じたのだろうか。

昼ご飯を食べて、さてそろそろ帰るか…と階段を下りたところで、祥子と出くわした。

 

 

「よ。」
「あ…」

彼女にしては珍しく、ぼんやりしていたようだ。ごきげんようより先に出たのが「あ…」とは。

「…ごきげんよう、白薔薇さま」

どうにも、歯切れが悪い。私は立ち止まって、祥子に向き直った。

「あの…」

逡巡していたが、やがて意を決したのか、祥子はいつものように真っ直ぐに私を見る。

 

 

「祐巳ちゃんが倒れた?」

なるほど。それで、おろおろしていたわけだ。
それにしても、頑張りすぎて倒れちゃうあたりが、祐巳ちゃんらしい。

「白薔薇さま。ほかにご用事がなければ、祐巳を家まで送っていただけませんか」
「私が?」

私は、驚いてみせる。実際、本当に少し驚いていた。

「なんで、自分でそうしないわけ?」
「………」

少し、いじわるな質問だった。できるものなら、自分が送っていきたいと、顔に書いてある。

 

 

「冗談よ。明日の準備で忙しいんでしょ、OKOK。任せなさい」
「…ご迷惑をおかけします」

少し口をとがらせて、祥子はそれでも、礼儀正しく頭を下げる。
私は、祐巳ちゃんが寝かされている保健室に向かいかけて、足を止めた。

「…そういや、こんな風に祥子に頼まれごとされるの、初めてよね」
「そうでしたか?」
「うん、そう」

私が笑うと、祥子も小さく微笑んだ。

「祐巳をよろしくお願いします」

 

しっかりと背を伸ばして歩み去る姿を見送ってから、私は歩き出した。

2006.02.28

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

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