初めての頼みごと |
3年もこの時期になると、学級閉鎖かというくらい、教室に人気がない。 リリアン女子大合格は決まっていたし、特に登校する必要もないのだが、最近は毎日学校に足が向く。 なぜだろう。 高校生活が残り少なくなって、急にこの場所に愛着を感じたのだろうか。 昼ご飯を食べて、さてそろそろ帰るか…と階段を下りたところで、祥子と出くわした。
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「よ。」 彼女にしては珍しく、ぼんやりしていたようだ。ごきげんようより先に出たのが「あ…」とは。 「…ごきげんよう、白薔薇さま」 どうにも、歯切れが悪い。私は立ち止まって、祥子に向き直った。 「あの…」 逡巡していたが、やがて意を決したのか、祥子はいつものように真っ直ぐに私を見る。
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「祐巳ちゃんが倒れた?」 なるほど。それで、おろおろしていたわけだ。 「白薔薇さま。ほかにご用事がなければ、祐巳を家まで送っていただけませんか」 私は、驚いてみせる。実際、本当に少し驚いていた。 「なんで、自分でそうしないわけ?」 少し、いじわるな質問だった。できるものなら、自分が送っていきたいと、顔に書いてある。
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「冗談よ。明日の準備で忙しいんでしょ、OKOK。任せなさい」 少し口をとがらせて、祥子はそれでも、礼儀正しく頭を下げる。 「…そういや、こんな風に祥子に頼まれごとされるの、初めてよね」 私が笑うと、祥子も小さく微笑んだ。 「祐巳をよろしくお願いします」
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しっかりと背を伸ばして歩み去る姿を見送ってから、私は歩き出した。 |
2006.02.28 |