カニーナ・カンタービレ余録2 |
アヴェ・マリアの澄んだ旋律が音楽室に流れていく。
ゆっくりと、流れるように彼女の指が鍵盤の上を滑る。 私は目を閉じて、その音に耳を澄ませた。
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「先日の歌のお返しに」と、彼女は言った。 なるほど、曲は同じグノーのアヴェ・マリア。 初めて聞く彼女のピアノは、その性格と同じように穏やかで清らか…。 「静さま」 演奏を続けながら、彼女は静かに口を開いた。
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「先日はありがとうございました」 「…お礼を言われるほどのことじゃないわ」 「いいえ」 「お姉さまにチョコレートを下さったでしょう?」 「別に責めているわけではないんです。お姉さま、喜んでいらしたから」
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「ところで静さま」 なんだか、テンポが早くなっている気がする。 「…ほっぺにチュ」 思わず、吹き出しそうになった。彼女はにっこりと笑う。 「いえ、別に責めているわけではないんです。ただ、私はしていただいたことがないな、と。ええ、それだけなんです」 「そ、そう…」 超絶技巧練習曲並みの激しさで、平然とアヴェ・マリアを弾き続ける志摩子さんが怖かった。
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♪=200くらいのアヴェ・マリア。聞いてみてぇ(^^;。 |
2006.03.1 |