通り雨

 

バスを降りたか降りないか、というタイミングだった。

ぽつりと顔に当たったかしら…と思った次の刹那、一面が水煙にけぶる。

「きゃ…」
「うわっ、いきなりですね」

祐巳が声を上げた。この子は本当に思っていることが顔に出る。

でも、祐巳ではないけれど、この雨は予想外。
一日晴れ、との天気予報だったから、当然、傘など持っていない。

 

 

「もう、どうしていきなり…!」

理不尽な自然の仕打ちに、不意に怒りがこみ上げる。

「お姉さま」
祐巳がこちらを見上げていた。

「ダッシュです!」
「え?」

答えも待たず、祐巳は私の手を取って走り出す。

「ちょっと、お待ちなさい祐巳…っ」

 

 

泥はねを気にする私をよそに、意外なほど力強く手を引いていく祐巳。

私たちは、降りしきる雨の中を小走りに駆けた。

ふと、祐巳が雨よけにしているのを見て、同じように鞄を頭の上に掲げてみる。
そうして目の前で揺れるお下げを見ているうちに、やがて雨音しか気にならなくなった。

………。

「びっくりしましたね、お姉さま」

昇降口にたどり着いて、弾んだ息を整える。

「びっくりしたのは私の方だわ…もう」

 

 

「ごめんなさい。でも、無我夢中で」
「しようのない子ね…」

無邪気に笑う祐巳のお下げから滴がしたたっているのを、手を伸ばしてハンカチで拭いてやった。

リリアンで、スカートを翻しながら走るなんて、はしたない。
…だのになぜ、こんなに胸がどきどきするのかしら。

「お姉さま!」
ほら、と祐巳が指さす先。

いつの間にか雨は上がり、マリア様の心のような青空が覗いていた。

 

差し込む日差しの中、祐巳と二人で笑った。

2006.03.04

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

お名前  mail

  ご意見・ご感想などありましたらどうぞ。