はっせいれんしゅう |
「「あら…」」 第一体育館。 演劇部はステージ、コート半面がバスケ部の割り当て。 放課後の早い時間なので、2人の他にはまだ誰も来ていない。 軽く会釈を交わして、瞳子は舞台上で発声練習の準備、可南子は床掃除に取りかかる。
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キュッ、キュッ…。 「あえいうえおあお・かけきくけこかこ…」 モップがけをしていると、舞台からよく通る声が聞こえてきた。 ふうん…。 「ねえ。『外郎売り』をやってみてくれない?」 瞳子は、わずかにびっくりした顔をした。 「構いませんけれど…」
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コホン。 「拙者親方と申すは、お立合の中に、ご存じのお方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町をお過ぎなされて、青物町を登りへお出なさるれば…」 すらすらと、淀みない発音。…聞いていて、耳に心地よい。 「…何を笑ってますの」 可南子はきょとんとした顔で、自分の顔を指さした。 「私、笑っている?…ただ、さすがだなって思っていたんだけれど」 可南子はモップを手にしたまま、ステージに歩み寄る。
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「あめんぼ赤いな あいうえお。浮藻に小えびも泳いでる…だったかしら?」 体格の良さと、何より運動部で鍛えているせいだろうか。素人とは思えない発声だ。 「なかなかやりますね。…では、こういうのはどうです?」 ………
「あら、そこにおわすはバスケ部部長。中入らないで何してるの?」 そう言って、扉の影から体育館内をちょいちょい、と示す。 「あら、これはまた…」
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ステージの上と下で、体操服と制服が仲良く発声練習を競っていた。 |
2006.03.16 |