はっせいれんしゅう

 

「「あら…」」

第一体育館。
互いの顔を見合わせて、瞳子と可南子は同時に声を上げた。

演劇部はステージ、コート半面がバスケ部の割り当て。
教室を出たのは別々だったから、今日が同じローテーションだとは知らずに鉢合わせたというわけだ。

放課後の早い時間なので、2人の他にはまだ誰も来ていない。

軽く会釈を交わして、瞳子は舞台上で発声練習の準備、可南子は床掃除に取りかかる。

 

 

キュッ、キュッ…。

「あえいうえおあお・かけきくけこかこ…」

モップがけをしていると、舞台からよく通る声が聞こえてきた。
手を止めて、そちらを見る。

ふうん…。

「ねえ。『外郎売り』をやってみてくれない?」

瞳子は、わずかにびっくりした顔をした。

「構いませんけれど…」

 

 

コホン。

「拙者親方と申すは、お立合の中に、ご存じのお方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町をお過ぎなされて、青物町を登りへお出なさるれば…」

すらすらと、淀みない発音。…聞いていて、耳に心地よい。

「…何を笑ってますの」

可南子はきょとんとした顔で、自分の顔を指さした。

「私、笑っている?…ただ、さすがだなって思っていたんだけれど」
「お世辞は結構です」
「今さら、お世辞なんて。…そういえば、こういうのもあったわよね」

可南子はモップを手にしたまま、ステージに歩み寄る。

 

 

あめんぼ赤いな あいうえお。浮藻に小えびも泳いでる…だったかしら?」

体格の良さと、何より運動部で鍛えているせいだろうか。素人とは思えない発声だ。

「なかなかやりますね。…では、こういうのはどうです?」

………
………

 

「あら、そこにおわすはバスケ部部長。中入らないで何してるの?」
「そういう君は演劇部部長」

そう言って、扉の影から体育館内をちょいちょい、と示す。

「あら、これはまた…」
「うふふ。なかなか可愛いじゃない?1年生は…」

 

ステージの上と下で、体操服と制服が仲良く発声練習を競っていた。

2006.03.16

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

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