ぬいぐるみ |
「ごきげんよう、令さま」 志摩子があいさつしてはじめて、令さまは顔を上げた。 剣道の有段者である令さまが、扉を開けて室内に入っても気付かないなんて、よほど熱中していたらしい。 「なにをなさってるんですか?」 テーブルの上に出された道具からして、手芸のようだが…。
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「え?ああ…」 一瞬、言葉を濁しかけて、令さまの口元が緩む。 「はは…これを、ね」 そう言って、令さまが見せたのは、両手に収まるほどのぬいぐるみ。 「まあ…」 特徴をうまくとらえてディフォルメされた由乃さんだ。
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「すごい…よくできていますわね」 手に取って見せてもらう。まだ作りかけだが、さすがは手芸もプロ並みの令さまといった出来映え。ちゃんと三つ編みになっているお下げが可愛い。 「いや、そんなに大した物じゃないよ」 志摩子がしきりに感心するので照れくさいのか、令さまは頭をかいた。 「そうだ。志摩子にも作ってあげようか」
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「リクエストはない?聖さまとか、乃梨子ちゃんとか」 「いえ…そんな申し訳ないです。このぬいぐるみも、まだ作りかけなのでしょう?」 なんとなく慌てて、体の前で両手を振る。 「あはは、大丈夫よ。これ34体目だから」 「……………そ、そうですか」 この日ほど、自分にツッコミの才能が皆無であることを残念に思ったことはない志摩子だった。
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つまりすでに令の部屋には、33体の由乃人形がっ?!(笑) |
2006.03.18 |