白薔薇・名残

 

「失礼いたしました」
「…ました」

優雅ともいえる仕草で一礼するお姉さまにならって、不器用に頭を下げる。
視界の端に、担任が珍しいものでも見るような目で、こちらを見ているのが映る。
あえて気付かない振りをしようとしたが、お姉さまがそちらにも会釈するので、仕方なく、水飲み鳥の置物のように頭を上下させてから、職員室を辞した。

廊下に出ると、1月の冷たい風が首筋を一撫でして、私は思わず首をすくめた。
相変わらずバサバサの髪は、軽くなった分、冬の試練を強いる。

 

 

「次は、クラブハウスね」

にこりと微笑んで、お姉さまは歩き出した。

 

三学期―――。

私はお姉さまに連れられ、山百合会に関するさまざまな仕事をこなしていた。
各所へのあいさつ回りも、その一つ。

もうじき3年になろうという人間が、幼稚舎の生徒のようにお姉さまに連れられて歩く様は、相当に恥ずかしい。
しかし、これも今までつぼみらしい仕事をさぼっていた私の自業自得だ。

 

 

本当に恥ずかしい思いをさせているのは、お姉さまの方。
私のような出来の悪い妹を持つと、姉は苦労する…。

弾むような足取りで前を歩く後ろ姿を見つめて、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

沈みがちな私の手をお姉さまは引いてくれる。
それに対して、私は何の恩返しもすることができないばかりか、迷惑ばかりかけている。

「…すみません、お姉さま」

思わず、そんな言葉が口をついて出た。

 

 

足を止めて振り返ったお姉さまは、きょとんとした顔で私を見返した。

「…お世話ばかりおかけして」

瞬きをしたお姉さまは、ばかね、と言った。

「私、嬉しいのよ」

「え…」

お姉さまは優しく微笑んで、短くなった私の髪にそっと触れた。

「最近はいつでも側にいて、あなたの顔を見ていることができるんだもの」

 

私は小さくうつむいて、熱いものを誤魔化した。きっとお姉さまには、お見通しに違いないけれど。

2006.03.26

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

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