白薔薇来訪からお読み下さい。
ロザリオの絆 |
「どうぞ…」 「ありがとう」 志摩子の煎れたティーカップを受け取って、お姉さまはその香りを楽しんだ。 「そういえば、お名前をまだ知らなかったわね」 お盆を持ったまま立っていた志摩子は、少し慌てたように答えた。 「失礼しました。私、藤堂志摩子と申します」 一瞬、志摩子と視線が交錯して、私は不覚にも、どきりとした。 「お姉さま…佐藤聖さまの妹です」 今度は迷いなく、志摩子は言った。 私は、自問する。そのまっすぐな視線を受け止められるだけの、姉であっただろうか、と。
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「藤堂…志摩子ちゃん」 ゆっくりと、確認するように、お姉さまはその名を繰り返した。 私は内心、恐れていた。 お姉さまの口から、私のことが飛び出すのを。 それがどんなものであれ、不安定な今日の私の心は、どちらへ向かって駆け出していくか分からなかった。 けれど、お姉さまは私と志摩子を一度ずつ見つめただけで、ゆっくりとカップを口に運んだ。 「ありがとう、志摩子ちゃん。とてもおいしいお茶ね」 そして、眩しいほど優しい微笑みを志摩子に返しただけだった。 その時、私は思い出していた。 お姉さまには一生敵わないのだということを。 私はほっとして、目の前のカップを口に運んだ。 志摩子の煎れてくれたレモンティーは、砂糖を入れていないのに、なぜだかとても甘かった。
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「ふふっ…」 私の隣に座った志摩子を見て、お姉さまは目を細めた。 「今日は人生最良の日ね」 「え?」 「聖の妹に会えるなんて。…ね、志摩子ちゃん?」 「私も…お会いできて嬉しいです」 お姉さまと志摩子、二人に笑みを向けられて、私は無意識にそっぽを向いていた。 こういうのは特に苦手だった。 ふと助けを求めると、蓉子たち3人の姿は室内から消えていた。 荷物は残っているから、戻ってはくるつもりなのだろう。 やられた。 敵わない人物がもう一人いたことを、私は思い出していた。
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「…お断りもせずに出てきてしまって、よろしかったんですの?」 「いいのいいの。だって、白薔薇さまにとっては、初孫との対面なのよ」 まだ納得しがたい表情の祥子の肩をポンと叩く。 「ほら、いいからいいから。私たちは私たちで行きましょう」 「紅薔薇白薔薇、水入らず、ですね」 「お、いいこと言うわね、祐巳ちゃん。よーし、じゃあおばあちゃんがホットミルクごちそうしちゃう」 「えっ…まさか、またホットいちごミルクじゃ」 「ホットいちごミルク…?」 「それはですね、お姉さま…」 「あら、言っちゃダメよ祐巳ちゃん。あれは二人のナイショでしょう?」 「教えなさい、祐巳」 「ええと、その…」 「だぁ〜め。ほら、行きましょう!」 私は、祥子と祐巳ちゃんの腕を両脇に抱え込んで、駆け出した。 なんて気持ちいいんだろう。 マリア様のお庭には、春の香が漂い始めていた。
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我ながら大それた話を書いてしまった(^^;。 |
2004.02.13 |