親ガモ子ガモ

 

「お姉さま」

椅子に腰掛けた三奈子さまの前に、真美は立った。

部室で参考書なんか広げている姿が、とても似合っていない。

「んー」

珍しく集中しているのか、気のない返事。

この間のことですけど…」

 

 

「この間のこと?」

思い出そうとしているのか、目の前の問題を考えているのか、微妙な表情。

真美は少しだけ言いよどんで、

「カルガモのことです」

と言うと、三奈子さまはああ、と笑った。

 

 

「あれって、私に妹をつくれってことでしょうか」

少しだけ、怒ったような口調になってしまった。

三奈子さまはシャーペンを置くと、真美を見た。

「別にそういうわけじゃないけれど」

「でも、ああいうことをおっしゃったということは、私が妹をつくることを期待してるってことではないんですか」

「そうね。それは否定しない」

 

 

三奈子さまが背をもたせかけると、部室の古いパイプ椅子はギッと軋んだ音を立てた。

「やっぱり、妹はいないより、いた方がいいと思うのよ」

「…どうしてですか」

そうね、と三奈子さまは軽く目を閉じた。

「わたし自身がよかったと思っているからよ。あなたという妹を持ったことを」

そう言うお姉さまの横顔は、とても優しかった。

 

柄にもなく鼻の奥がツンとして、真美は無理に仏頂面をつくった。

2005.1.2

 

爆笑! くすりっ もえ〜 じんわり つまんない

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